パナソニック
パナソニックはスマート家電を全面的にアピール(写真:日経ホームビルダー)
トヨタグループ
トヨタ自動車とトヨタホームは一つのブースを構え、家と自動車がつながる未来像をプレゼンテーションしていた(写真:日経ホームビルダー)

 2012年10月2日から6日まで、幕張メッセ(千葉市)で開催された、最先端IT・エレクトロニクス総合展の「CEATEC JAPAN 2012」。今年はスマートシティやスマートハウスといった、建築・建設業界にも関わりがあるキーワードが新聞やテレビなどのニュースで報じられていたこともあり、「行ってみた」という住宅業界の読者も少なくないだろう。

 筆者も、そんなスマートハウスの展示を目当てにCEATECに行ってみた一人だ。確かに会場内は盛り上がっている。だが、CEATECでうたわれているスマートハウスという言葉に、違和感を感じた。スマートハウスという言葉が使われ出したころから、もやもやっと抱いていた違和感だったが、CEATECの会場での盛り上がりを見て、さらに思いは強くなった。住宅業界も共感できるスマートハウスの姿は、本当にこのようなものなのだろうか…。

住宅の付帯情報をスマート化

 今年の展示では、シャープや東芝、パナソニック、三菱電機といった大手家電メーカーがこぞってスマートハウスに関連した技術や未来像を紹介していた。いずれも、太陽光発電や家庭用蓄電池、電気自動車(EV)といった創蓄エネルギーシステムを住宅に組み込み、停電時などでも電気を止めることなく生活を持続できる仕組みの提案などだ。

 さらに、LED照明やエアコン、テレビ、冷蔵庫といった家電設備を連携させ、住宅内のエネルギー消費状況に合わせて最適な制御を実施したり、家電設備が故障した際に自動的に修理センターに情報を発信したりするといった仕組みの提案もあった。これらのエネルギーと家電設備のスマート化によって、住まい手に快適な空間を提供するといったものだ。

 トヨタ自動車やトヨタホームといったトヨタグループのブースでは、住宅と自動車がつながる未来像をデモストレーションするなど、一歩踏み込んだスマートハウス像の提案もあった。

 これらの提案は、住宅を賢くする提案の一つとしてとても興味深いものだった。だが、やはり、IT業界が提示するスマートハウスという言葉と住宅業界の間に、横たわる一本の溝を筆者は感じてしまった。何かが欠けている気がする。その要因は、「何を賢く、スマート化したのか」にあった。

 展示提案をよく見ると、スマート化されているのは住宅内のエネルギーや住宅設備の情報であり、建物自体ではない。スマートハウスと言いつつ、実はスマートエネルギーとスマート家電がその大半を占めている。言わば住宅の付帯情報のスマート化だ。建物自体が本当に賢くスマートになっているようには、筆者には見えなかったのだ。

建物の声をITで伝える

 では、IT業界と住宅業界の溝を埋める、住宅業界から考えるスマートハウスとはなんだろうか。その一つとして、「建物自体の声を聞くこと」を提案したい。

 例えば、柱や梁などに角度や加速度を測定するセンサーなどを取り付ける。耐震性能が高い建物であっても、大規模な地震が起きれば柱や梁に力が掛かり、耐震補強金物などにも負荷が生じる。地震後に、柱や梁、金物などが受けたダメージをセンサーから推測できれば、次の地震(余震など)にどの程度耐えられるかを推測し、建物から待避するべきか否かの判断材料を住まい手に提供できる。

 震災時だけではない。例えば、水平垂直を計測するセンサーを設置しておき、不同沈下といったトラブルを事前に察知することも考えられる。水を感知するセンサーなどを応用して、雨漏りやシロアリのリスクに備えるということもあり得る。

 これら、建物自体のリアルタイムの状況は、言わば建物が発する“声”とも言える。この建物の声をIT技術を通して住まい手に提供できるようにすることこそ、建物を賢くする真のスマートハウス化ではないだろうか。

 「センサーなどを付けることで、住宅がロボット化するのは嫌だ」と毛嫌いする人もいるだろう。だが、IT技術を補助的に活用することは、決してロボット化することではなく、建物に知恵を与えるものだと筆者は考える。「建物は住まい手に安心・安全を提供する」という家づくりの考えに基づけば、スマートハウス化した結果、住まい手に安心・安全な住まいを建物自体が賢く提供できるようになることは、プロが求める本当の家づくりにつながるはずだ。

 ただ、勘違いしてほしくないのが、建物のIT化を強く推している訳ではないということ。もちろん、IT技術に偏ったスマート化だけではダメで、建物自体の性能も重要になる。太陽や風といったパッシブの仕組みの活用や断熱性能、耐久性能、耐震性能など、建物自体が高い性能を備えていることが大前提になる。

 性能が高い建物の上に、賢いエネルギー利用や家電設備制御、建物自体の状況発信などを組み合わせる。これら、IT業界と住宅業界の両方からのアプローチが本当のスマートハウスを生み出せる。是非とも業界の枠を超えて、住まい手に良い住宅を提供してほしい。