宮城県七ヶ浜町は、東日本大震災による損傷で、建て替えられることになった七ヶ浜中学校の設計者を選定する公募型プロポーザルを実施し、最優秀に乾久美子氏を選出した。

 このプロポーザルは、七ヶ浜町吉田浜にある七ヶ浜中学校の設計と、将来の小中一貫校化を想定しての亦楽小学校を含んだ全体エリアの基本構想を提案させるもの。設計条件は、計画延床面積が中学校や小学校、地域開放施設などを含む約8500m2、中学校の延べ面積が4300~5500m2。工期は2013年4月から14年9月までを予定している。

最優秀に輝いた乾久美子氏による提出案(資料:乾久美子建築設計事務所)
最優秀に輝いた乾久美子氏による提出案(資料:乾久美子建築設計事務所)

 プロポーザルは2段階で行い、1次審査を通過した遠藤克彦、乾久美子、三浦慎、酒井康介、八重樫直人の5氏が、発注者側との意見交換会を経て、2月5日に七ヶ浜町中央公民館で公開プレゼンテーションを実施。同日の2次審査によって、最優秀を決定した。次点は遠藤克彦氏。審査は建築家で横浜国立大学教授の小嶋一浩氏をはじめとする計8人からなる評価委員会が担当した。

 最優秀となった乾氏による提案のコンセプトは「リトルスペースの森」。リトルスペースとは、少人数指導の展開や自主的な学びを創造的に展開する装置で、利用方法は学年が進むにしたがって変化する。使い方についてはワークショップの開催も想定している。リトルスペースは柔らかい森と相まって、グラウンドと校舎の間にある壁をなくし、学びの場の広がりや連続性を確保する効果をもたらすという。

 全ての棟はロの字形をしており、それらがネットワーク状につながることで、全体でループを構成する。教室は開放的で明るい片廊下型と、フレキシビリティの高いオープン型の両方の良さを併せ持ったハイブリッド型とし、それによって学びの場を多様化している。構造は鉄筋コンクリート(RC)のラーメン造で、リトルスペースの一部をバットレスとして利用することで水平力を確保する。

七ヶ浜町中央公民館で行われた公開プレゼンテーションで説明する乾氏(写真:磯 達雄)
七ヶ浜町中央公民館で行われた公開プレゼンテーションで説明する乾氏(写真:磯 達雄)

乾氏による提案の模型写真(写真:磯 達雄)
乾氏による提案の模型写真(写真:磯 達雄)

同模型写真(写真:磯 達雄)
同模型写真(写真:磯 達雄)

 乾久美子氏は1969年生まれ。東京芸術大学美術学部建築科卒業、イエール大学大学院建築学部修了。青木淳建築計画事務所の勤務を経て、2000年に乾久美子建築設計事務所を設立。2011年に東京芸術大学の准教授に就いた。「アパートメントI」で2008年新建築賞、「スモールハウスH」で2010年東京建築士会住宅建築賞、「フラワーショップH」で2010年日本建築士会連合会賞優秀賞や2010年グッドデザイン金賞、2011年度JIA新人賞などを受賞している。