東日本大震災で建てられた数ある仮設住宅のなかで有名になった事例の一つが、岩手県住田町の仮設住宅だ。木造であることが珍しいうえに、国や県の指示を待たずに町役場が整備に乗り出した点や、地元出身の大工が地元産の木材でつくった点などが高く評価され、数多くのマスメディアで報じられた。

 現地取材から約3カ月経った7月末、東京都港区の六本木ヒルズの敷地内で住田町の仮設住宅と“再会”した。国内外の森林の保全に取り組む一般社団法人モア・トゥリーズが被災地支援のイベントを開催し、地域の森林を活用した事業の好例として同町の仮設住宅を展示したのだった。モア・トゥリーズは著名な音楽家の坂本龍一氏が代表を務める団体だ。木造仮設住宅の知名度がさらに高まったことは間違いない。

2011年7月末、六本木ヒルズの敷地内に出現した岩手県住田町の仮設住宅。屋根は未施工のままだった。イベント主催者のモア・トゥリーズによると、屋根を施工した場合、建築物の扱いになって設置の手続きに時間がかかる恐れがあったことや、屋内に本格的な照明器具を設ける手間もかかることが理由だという(写真:日経ホームビルダー)

 従来はごく例外的な存在だった木造の仮設住宅が、今回の震災では、少数派ではあるにしても決して例外ではなくなった。プレハブよりも大幅に長いと思われてきた工期が、地元のプレカット工場の活用や大工の増員などでかなり縮められることが分かった。つくり手は住友林業のような全国展開の住宅会社にとどまらず、規模の小さい地域の住宅会社や工務店も加わった。

 住宅会社や工務店は、本業の住宅づくりを、日常的に付き合いのある協力会社、大工、職人だけで構成した、言わば閉じた集団で行うことが多い。しかし仮設住宅の建設では業界団体の力を借りるなどして他県からも大工を動員したり、場合によっては設計事務所、学識経験者と連携したりするケースも目立った。単身高齢者の入居に配慮して配置計画を工夫したもの、基礎に一般的な木杭ではなくコンクリートを打ったものなど、様々なタイプの仮設住宅が生まれつつあるのは、かつてないほど多様な技術者、専門家が担い手になったことの反映と言えるだろう。

 仮設住宅を手掛けた工務店の経営者から、「普段は組まない人と一緒に仕事をした経験を今後に生かしたい」という趣旨のコメントを聞くことがあった。そうした思いを、震災が完全に終息した時期にも忘れずに抱き続けてほしい。先進的な、あるいはユニークな仮設住宅づくりで咲かせた“花”を、何らかの形で本業に結実させないのは、もったいないと思う。