突然、めまいがするような不思議な感覚に襲われた。オフィスがある東京都港区の26階建て超高層ビルがゆらりゆらりと揺れたのだ。3月9日午前11時45分ごろ発生した、三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震によるものだ。一抹の不安が一瞬、頭をよぎった――。

 超高層ビルが長周期地震動に遭遇したとき、どのような事態が起こるのか。日本建築学会が3月4日に研究成果を発表したばかりだった。そこで、気になる一文を見つけた。「超高層建物が大きな地震を受けた直後に実施しなければならない応急危険度判定(避難の要否)や被災度判定(被害の程度と再使用への工期・工費)は、困難を極める可能性が高い」。

3月4日に開かれた日本建築学会の記者発表。ワーキンググループの主査を務める北村春幸・東京理科大学教授が研究成果を発表した(写真:日経アーキテクチュア)
3月4日に開かれた日本建築学会の記者発表。ワーキンググループの主査を務める北村春幸・東京理科大学教授が研究成果を発表した(写真:日経アーキテクチュア)

 つまり、大地震発生後に超高層ビルの構造安全性を確認することは現状では難しいということだ。超高層ビルの被災調査は高度な知識が必要で、専門家に頼らざるを得ない。肝心の構造技術者が足りず、作業が遅れる可能性が高い。これは、超高層ビルが倒壊しなくても、長期間にわたって使用不能となる恐れがあることを意味する。

 被災直後は、建物管理者の判断で建物から避難するかどうかを判断せざるを得ない。建物管理者の指示がなければ、在館者自身が判断することになる。建築構造の専門家ではないので、少しでも懸念があれば避難するという判断に傾くだろう。早期復旧のカギは、応急危険度判定などの被害調査がいかに迅速かつ的確にできるかにかかっている。

 日本建築学会のワーキンググループは、東海・東南海・南海地震が連動して発生した場合の応急危険度判定に要する調査日数を現状で8~10日程度と推計した。

 将来は、調査に要する期間はさらに延びる可能性が高い。建設投資の減少や少子高齢化の影響で、構造技術者が減ると見込まれているためだ。しかも、超高層ビルが新設されれば、調査対象は増える。構造技術者が現在の3分の2に減り、調査対象の棟数が2倍に増えた場合を想定すると、判定には22~30日を要するという。