序文

第五のエレベーション
近江 栄 日本大学教授

 建物を撮った写真で、空撮のアングルから「こんな見え方もあったのか」と新鮮な感動を与えられることがたびたびある。日経アーキテクチュアでは、魅力的な空撮で毎号楽しませてもらっているが、今回まとめられた写真集も、圧倒的な迫力をもって見る者に迫ってくる。

 ル・コルビュジエが出した屋上庭園のコンセプトは、空撮のよく似合う安藤忠雄さんの作品に生きている。原広司さんも大阪の「梅田スカイビル」で大きく発展させた。屋上のデザインは「第5のエレベーション」として慎重に対応すべきものなのだ。

 空撮写真の効用については、日建設計の林昌二さんから、興味深い話を聞いたことがある。

 林さんはデビュー作と言われている東京・銀座の「三愛ドリームセンター」のトップのデザインに腐心されて以来、「パレスサイドビルディング」、「三井物産ビル」など屋上のデザインには、格別に力を注いだという。そしてそれは自分の視覚に飛行機マニアの背骨があるからだろうとも言った。30年も昔から、今日の都市像を見据え、景観への配慮をしていたことは見事な見識であろう。

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 羽田や成田へと向かう着陸態勢に入った飛行機内から下を跳めると、確かに鳥瞰を通して都市デザインの乱雑さに気付かされる。超高層のホテルやオフィスビルの窓から隣接ビルの屋上を眺めて、建築家たちの手抜きが一目瞭然となる場合もある。地上からの仰角の視線さえクリアすれば事足れりとして、その段階で済ませてしまっている建物のなんと多いことか。

 私はこの写真集に登場している100点を超える有名建築のうち、約70%を訪ねている。BCS賞その他の審査の機会が与えられたからであるが、今にして思えばその20%ぐらいは屋上の見学を省略してしまっている。おそらく見せたくないので、応募者側があえて順路から削ったのに違いない。実際、屋上に上って、配管が雑然と交錯し、クーリングタワーが汚れたままになっている姿に遭遇すれば印象は悪くなる。

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 一方、最近の体験として、こんなこともあった。

 ある企業の研究所の空撮写真の美しさに魅かれ、大学院生を引き連れて遠路はるばる見学に出かけたのだが、雑誌で見た美しいアングルを体験するためには、少し離れた高層オフィスビルの屋上に上らなければならない。地上から見るたたずまいは、堆積した芝生の土手に遮られて、期待を裏切る景観となっていた。

 上から見たときと地上からのアングルの落差が甚だしいのは、模型のスタディにのめり込みすぎた結果だろうか。

 空から見ないと良さがわからないというのも困りものではあるが、それを楽しめるのも空撮写真の魅力にはちがいない。

 今回の写真集に選び出された三島カメラマンの見事な作品が生まれる背景には、膨大なフィルム・ライブラリーが潜んでいるのであろうと想像する。日経アーキテクチュアの20年間に注ぎ込まれた情熱の集大成ともいうべきこの写真集は、街づくりに関わるすべての人に、大きな刺激を与えるに違いない。