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 このコンテンツは、2000年に発行した日経コンストラクションの書籍「現場で役立つコンクリート名人養成講座」※を、章単位のPDFファイルで復刻したものです(ケンプラッツ・デジタルライブラリー)。基本編の抜粋をこのページの末尾に掲載しています。

※2000年に日経コンストラクションが発行した「現場で役立つコンクリート名人養成講座」のPDFファイルの内容は、2000年以降の技術指針の見直しなどを反映していません。そのため08年に指針類の見直しなどを盛り込んだ「現場で役立つコンクリート名人養成講座 改訂版」を発行しました。発売中の改訂版の概要は、[現場で役立つコンクリート名人養成講座 改訂版]をご覧ください。

現場で役立つコンクリート名人養成講座
現場で役立つコンクリート名人養成講座

定価:本体2800円+税
十河茂幸(大林組技術研究所)、信田佳延(鹿島 技術研究所)、宇治公隆(首都大学東京)、栗田守朗(清水建設技術研究所) 共著
ISBN:4-8222-2019-2
発行日:2000年10月20日
※紙の書籍としては販売を終了しています。

 コンクリートは社会基盤の形成になくてはならない存在になっている。しかし、その半面、21世紀への負の遺産ともささやかれている。どこででも見られ、ほとんどその存在を意識させないコンクリート構造物は、劣化によるはく落で本来の姿を失うこともある。正しい認識のもとにコンクリートの特長を生かしてほしいと、念ぜずにおれない。

 われわれがコンクリートに期待するのは、やはり社会資本整備の核として、しっかりとした国土の根幹を成すことである。容易に造ることができ、自由な形を形成でき、丈夫で長持ちし、しかも安い建設材料である。コンクリートは、正しく使いこなすことによってその本来の姿を成す。数々の構造物を創造できるのである。

 21世紀を迎えるにあたり、なくてはならない社会基盤の礎を成すコンクリートを、いま一度見直し、本来あるべき姿となるように原点に立ち戻り、コンクリートを信頼できる建設材料にしたいと考え、そのメッセージをまとめた。コンクリートの技術書というよりは虎の巻として本書を活用していただければ幸いである。

2000年10月 筆者を代表して―― 十河茂幸


基本編から抜粋

 予期せぬ障害が現場には多い。気象の急変、思いがけない機械の故障…… 。万全を期した準備にも穴が開く。コンクリート打設計画は、現場に起こりうるあらゆる変化を予測して立てることが大切だ。そして計画こそが構造物の良否を左右する。

施工計画:構造物の良否は計画で決まる

 「コンクリートは生きている」と言われる。製造の過程で性状が変化し、硬化した後も強さを増して、その後は次第に劣化していくからだ。まさに生き物である。

 特に変化が激しいのは、造り始めのフレッシュコンクリートのときである。この変化の激しい時期に、運搬、打ち込み、締め固め、仕上げといった一連の作業を一気に行う。しかも、大量のコンクリートを大勢の要員で扱う。この短時間の勝負で、すべてが決まり、コンクリートは後々まで地肌をさらすことになる。

材料の性質:刻々と変化するコンクリート

 コンクリートという材料の性質について、ざっとおさらいしておこう。セメント、水、細骨材、粗骨材、さらに必要に応じて混和剤を加え練り混ぜれば、コンクリートができあがる。

 細骨材と粗骨材が骨格となり、これを結び付るのが水を加えたセメント、つまりセメントペーストであり、接着剤の役割を果たしてコンクリートができる。セメントペーストの強度が高いほどコンクリートの強度も高く、耐久性に優れるコンクリートになる。

 セメントは水を加えると水和反応を始め、次第に強度を増す。コンクリートの打ち込みは、水和反応が急激になる前に行う。セメントには急激な反応が起こらないように工夫がなされており、混和剤にもその性能が求められている。それでもフレッシュコンクリートの品質は刻々と変化する。

 コンクリート工事に携わる技術者に知っておいてほしいグラフが三つある。

 一つは、標準的なコンクリートのスランプの経時変化を表すグラフだ。スランプは、練り混ぜ直後から時間とともに小さくなっていく。二つ目は、凝結の経時変化を示すグラフだ。「プロクター貫入抵抗試験」と呼ぶ方法で測る。練り混ぜから4時間を過ぎたころから、急に抵抗が増していく様子がわかる。三つ目は、湿潤養生期間と圧縮強度の関係を示したグラフだ。湿潤養生期間が長いほど、圧縮強度は大きくなる。

 これらの三つのグラフを見ることで、変化を前提にコンクリートを取り扱わなければならないことがよくわかるだろう。運搬、打ち込み、締め固めの過程ではフレッシュコンクリートの品質の変化を考えておかなければならない。打ち重ね、表面仕上げ、打ち継ぎのときには凝結過程のコンクリートの性質を考えておく。養生およびその後の段階では、硬化後のコンクリートの変化を知る必要がある。

施工中のトラブル:発生確率の高いトラブルを見込む

 レディーミクストコンクリート(生コン) の性能や取り扱い方法はJIS A 5308 に規定されており、通常はこれに従う。この規格によれば、コンクリートを製造して施工現場まで運搬する時間(荷卸しするまでの時間で、現場での待機時間を含む)を90分以内としている。

 土木学会のコンクリート標準示方書では、練り混ぜてから打ち終わるまでの時間を120分以内(外気温25℃以下の場合)としているから、計算上、荷卸しから打ち終わるまでに30分の余裕がある。つまり、生コン工場で製造されたコンクリートは、 2時間以内に現場で型枠の内に打ち込めばよいことになる。とはいえ、 2時間ぎりぎりで打ち込むような計画は好ましくない。生コン工場での練り混ぜから現場での打ち込みまでの間には、幾多の障害が待ち受けている。

 コンクリート工事で比較的、起きやすいトラブルを発生時期ごとに表に整理してみた。生コン運搬中の交通渋滞やコンクリート施工機械の故障など様々なトラブルがある。

 工事担当者は1日も早い施工を望み、いつも好天を期待している。しかし、コンクリートの施工は、順調にいく方が少ないと考えるべきだ。少なくとも発生確率の高いトラブルに対しては、その危機管理対策を計画に組み入れる必要がある。

 例えば、ラッシュ時に生コン車の運行ルートを走って、かかる時間を調べておくべきだ。型枠のはらみや支保工の沈下に備えて、資機材の予備を用意する。停電もあり得る。場合によっては、応援を頼める態勢にする。表面仕上げが遅れることを予想して照明器具を準備しても、使わないで済んでこそ順調である。トラブルを復旧するのに要する時間も見込んでおこう。

施工計画の照査:無理な計画は照査段階で排除

 近い将来、土木学会のコンクリート標準示方書は性能規定(照査)型設計に移行する。性能規定型とは、目的の構造物に要求される性能を満足するように設計し、完成した構造物が要求性能を満たしていれば、使用材料や施工方法を問わない。

 そうすると、コンクリートに要求される性能と施工計画の組み合わせは幾通りも存在するようになる。例えば、硬練りのコンクリートを手間暇かけて打ち込む方法や、高流動コンクリートを用いて一気に打ち込む方法などである。性能規定型設計では、立案した施工計画を照査(事前に机上で確認)し、打ち込んだコンクリートの耐久性まで確認しなければならない。

 硬練りのコンクリートをしっかりと締め固めて造ったコンクリート構造物は、耐久性に優れる。このこと自体は事実、理想であるが、コンクリート施工全体の計画のなかで、施工性に優れた高流動コンクリートを用いて、耐久性のある構造物を造った事例も多い。大切なのは、無理のない計画を立て、それを照査した後、万全の準備で施工に当たることである。

 硬練りコンクリートを用いる計画を立てても、ポンプの閉そくを避けるためにコンクリートに水を加えなければならなくなるなど、論外である。無理な計画は、照査の段階で排除しなければならない。

事前の準備:意思疎通を十分に

 「段取り八分」と言う言葉がある。物事は8割方、準備で決まることを意味する。特にコンクリートの施工は時間との闘いである。十分な準備なくしてうまくいくはずがない。

 コンクリートの打ち込みに先立って行う準備としては、機械の整備、配筋や型枠・支保工が設計通りとなっていることの確認、 翌日の天候の予測と判断および対策、生コンメーカーやポンプ圧送の専門工事会社、協力会社など、当日の関係会社とのスケジュール確認、現場作業者の意思疎通の徹底などがある。

 特に、直接工事に携わる作業員や、各持ち場の責任者、コンクリート工事の指揮をする統括責任者との打ち合わせは欠かせない。