下に掲載したのは、日経ホームビルダー2010年9月号の特集「リフォーム客からの採点簿」に出したグラフの1つだ。このときは単に、リフォームの依頼主にとって、依頼先の選択肢は多様であることを示すために出した。

近年に自宅をリフォームした経験がある消費者300人を対象に、2010年7月上旬から中旬にかけてアンケートを実施した。リフォームの依頼先の業態に関する設問への回答をまとめたのが、この円グラフだ。なお、アンケートでは調査会社のメディアパークの協力を得た(資料:日経ホームビルダー)

 その一方でこのグラフは、リフォーム工事の大半が、他社の建てた住宅を対象とすることも表している。例えば築数十年を経たような住宅は、図面が残っていたとしても現況と異なることがよくある。リフォームの依頼主はたとえ新築時の建て主と同じでも、住宅の現況を十分に把握しているとは限らない。リフォーム実務者は、仕上げ材を剥がしたら何が出てくるかわからない、さながら伏魔殿のような建物に立ち向かうことになる。一種の冒険ともいえるだろう。

 新築時の設計・施工のミスや部材の劣化などが放置され、リフォームの際に露見することがある。この場合、リフォーム実務者はしばしば、依頼された工事のほかに、過去のミスや劣化を解消する役割も担うことになる。工事の規模が大きくなる好機だが、どのような経緯で発生したか不透明なミスや劣化を解消することは、難度が高い工事になる恐れもある。

 その他、ミスや劣化の露見でリフォームのコストが上昇して依頼主の予算を超えたり、新築時の設計・施工に由来する不具合が、たまたまリフォームの最中や直後に生じてリフォーム実務者のせいにされたりする場合もある。リフォームの現場には、様々な“誤算”の芽が地雷のように埋まっているのだ。

 日経ホームビルダーの2011年1月号の特集「リフォーム現場の誤算」は、リフォーム実務者が様々な誤算に直面した事例を紹介する記事だ。内装リフォームする住宅が不同沈下で傾いているとわかったケースや、間取り変更のため間仕切り壁の撤去に取り掛かると、図面と異なる鉄筋コンクリートの壁が出現したケースなどを扱った。

 リフォームは建築士の資格や建設業の許可がなくても参入できるために、消費者には新築と比べると地味な、ときにはいかがわしいイメージさえ持たれることもある。しかし実際には、新築とはまた別の高度な技術を必要とすることを、1月号の特集で改めて実感した。

 新設住宅着工戸数の低迷、一次取得者層の所得の伸び悩みなどを背景として、新築中心からリフォーム中心へシフトする住宅建築事業者は増加傾向が続くだろう。競争の激化によって技術力の低い事業者が駆逐され、やがて消費者の間でのリフォームのイメージが向上していくことを願っている。