5年前の今日、2005年11月17日に構造計算書偽造事件が発覚した。国土交通省の発表は夕方だった。一報を受けて、「これは大変なことになるぞ」と日経アーキテクチュア編集部が騒然となったのを覚えている。その日以降、偽造のあったマンションや住民、姉歯秀次・元一級建築士、ヒューザー(破産)、イーホームズ(廃業)、木村建設(破産)などへの取材で駆け回った。

 当初、偽造のあった建物として公表されたのは21物件。その後、日を追うごとに物件数が増えていった。マンションだけでなくホテルでも、そして姉歯元建築士以外にも複数の構造設計者の偽造が次々と発覚。事件の余波はどんどん広がっていった。事件の取材先にはテレビや新聞、週刊誌など多くのマスメディアが殺到し、一般社会への影響の大きさを実感した。馬淵澄夫国交相も当時、偽造物件の視察に訪れていた。

 あの事件から5年。建築業界を取り巻く環境は大きく変わった。07年6月に改正建築基準法、さらに08年11月には改正建築士法が施行。構造計算適合性判定の導入や建築確認手続きの厳格化、構造一級建築士や設備一級建築士の創設、建築士の定期講習義務付けなどが矢継ぎ早に始まった。事件によって失われた建築物の安全性と、建築士制度に対する一般社会の信頼を回復するための苦渋の施策だ。

 また09年10月には、住宅の瑕疵担保責任を果たす資金の確保を、建設会社や宅地建物取引会社などに義務付ける住宅瑕疵担保履行法も完全施行された。偽造のあったマンションの販売会社が瑕疵担保責任を履行できないまま倒産して購入者に損害を与えたことから、同じ過ちを再び繰り返さないためにつくられた法律だ。

 今、どん底まで失墜した建築業界の信頼は取り戻せているのだろうか。改正建基法で打ち出された確認・検査の厳格化は、審査機関の過剰な対応を招き、手続きに時間がかかる要因となった。その影響で07年9月の新設住宅着工戸数は前年同月比44%減まで落ち込んだ。こうした“官製不況”の元凶となった改正建基法の再改正を巡り、国交省の「建築基準法の見直しに関する検討会」(座長:深尾精一・首都大学東京教授)は今年3月から半年以上にわたって議論を続けてきたが、結論を出せないまま10月19日の会合をもって散会した。

 法改正後、負わされる責任の重さ、増大する作業の多さに疲弊する建築実務者からは恨み節が漏れてくる。世界的な景気低迷とのダブルパンチで、収益を確保できない実務者も少なくない。正すべきところを正すのはもちろんだが、現行の法制度を前提に仕事のやり方や種類を変えることも必要だと思う。今日が記念日だとはとても言えないが、激動の5年間を振り返り、次の一手を考える良い機会にしてもいいのではないだろうか。