北海道石狩市と北海道は、土地の安さ、自然災害の少なさ、札幌からのアクセスの良さといった立地条件を生かし、データセンター誘致を積極展開している。北海道の寒冷な気候を生かして外気冷房や雪氷冷房を取り入れれば、大きなエネルギーコスト削減効果が生まれるという点もアピールしている。もちろん補助金や税制優遇制度もある。

 誘致場所は日本海に面した「石狩湾新港地域」。誘致第一号として、レンタルサーバーやデータセンターサービスを行うさくらインターネットの進出が決まっている。外気冷房を取り入れたことでも話題になった同社のデータセンターは、2010年6月に石狩市進出を決定した。2011年秋に完成する第一期工事(500ラック)の投資額は、土地・建物だけで37億円。最終的には4000ラックとなる予定だ。

 石狩市と北海道がデータセンター誘致を本格化させたのは、産学官による研究成果の裏づけを得た上でのことだ。

 2008年6月、ネットワークを活用したコンピュータ活用推進を目的とした任意団体のNCA(ネットコンピューティングアライアンス)は、産官学の任意団体「北海道グリーンエナジーデータセンター研究会」を発足した。東京理科大学と電気通信大学による、寒冷地におけるデータセンターのCO2排出削減についての研究成果を活用して、北海道へのデータセンター誘致の可能性を探ることが目的だ。

 こうした活動にIT関連企業がかかわったであろうことは容易に想像がつくが、実は建設業界の関与も小さくない。同研究会の後継組織である北海道GEDC(グリーンエナジーデータセンター)推進フォーラムの会員企業には、スーパーゼネコン5社すべてが名を連ねている。

 北海道グリーンエナジーデータセンター研究会では、寒冷な外気と雪氷の活用による消費電力低減の研究と、北海道のなかでのデータセンター最適立地を探るための「立地アセスメント」を行った。

 消費電力については、2000ラックのデータセンターの規模を前提に、北海道の気象条件で外気と雪氷を利用すれば従来方式と比べて年間約3500万 kWh・89%以上の冷房用消費電力の削減が可能との予測を2008年10月に発表した。立地については石狩市と小樽市にまたがる石狩湾新港地域が最適との判定を下した報告書を2009年4月にまとめている。

 これら研究成果に基づいて、自治体側で補助制度を整備していったのである。

同研究会による外気冷房と雪氷冷房を活用したデータセンターの模型。直接外気を取り入れるための大きな開口部や手前に見える冷房用の雪山が特徴的だ(写真:ケンプラッツ)

北海道における外気冷房を利用したデータセンターのCO2削減効果のシミュレーション。2000ラックのデータセンターの規模を前提に、寒冷地として北海道の札幌地区と、最もデータセンターの多い関東(東京)地区を比較。両地域での平均気温から外気による冷却と、それでカバーできない部分の冷房装置による冷房消費電力を算出、札幌については氷雪による効果も加味し、2地域での消費電力の差を計算によって算出(資料:北海道グリーンエナジーデータセンター研究会)

これまでなかった「寒冷地とデータセンター」という組み合わせ

 企業誘致に熱心な自治体は全国に多数ある。今回の事例で注目すべきは、これまでにない「寒冷地におけるデータセンターの省エネ優位性」という価値を創出したことが、企業誘致に(もちろん建設需要にも)つながった点にある。外気冷房、雪氷冷房という既存技術と「寒冷地」という立地条件を組み合わせて、データセンターの消費電力量削減を発想したのは、おそらく北海道グリーンエナジーデータセンター研究会が初めてだ。

 様々な既存技術を“マッシュアップ”することによって、新たな価値を創出する余地は、建設に関連する分野でもまだまだあるのではないだろうか。

 同研究会は現在、事業化を検討する「北海道GEDC推進フォーラム」と、技術的な検討をする「エクストリーム データセンター イニシアティブ(EDCI)」という組織に分かれて活動を継続中だ。両団体は「直接の受注活動は行わないが、会員企業の受注は推奨する」というスタンスで活動している。2010年7月時点で、推進フォーラムには28社、EDCIには33社が参加。両団体とも、北海道や北海道大学などがオブザーバーとして名を連ねている。

 EDCIで、寒冷地でのデータセンターの最適化に関するワーキンググループ(SWG1)に参加する建設、設備、設計、IT企業のメンバーに、これまでの活動と今後について話を聞いた。