輸送量の予測は適切なのか

 JR東海の計画は、リニア新幹線の開通で東名阪間の輸送量が増えるとの前提に立っている。これについて有識者や委員から疑問の声が上がっている。審議会では需要予測を独自に検証する予定だ。

 東海道新幹線・東京-新大阪間の輸送量は、世界金融危機や高速道路料金割引の影響がない2007年4月~08年3月の実績で465億人キロだ。リニア新幹線が南アルプスルートで名古屋まで開通した時点での輸送量は、リニア新幹線が167億人キロ、東海道新幹線・東京-新大阪間が401億人キロになると予測している。つまり、東名阪間の輸送量は2割増の568億人キロになると見込んでいる。

 前提条件として、経済成長率が-0.8%~1.3%で推移し、沿線人口が2008年の6800万人から6520万人まで減ると仮定した。超高速がゆえに新規需要が生まれるとみているほか、ダイヤに余裕のできる東海道新幹線では地域間輸送の需要を掘り起こしたい考えだ。

 確かに、ビジネス・観光の両面から、一定の新規需要は期待してよいだろう。有識者からは輸送量を増やすための様々な提案があった。

 観光面では、外国から人を呼び込むことが重要だと訴える意見が多かった。政府は地域経済活性化の切り札として、観光立国の早期実現を目指している。リニア新幹線を利用して各地に短時間で足を運んでもらえるほか、リニア新幹線そのものも観光の目玉にできる。

 東京などの大都市から短時間で大自然のある地域に行ける点は、世界でも非常にまれなケースだという。例えば、ミシュラン・グリーンガイド・ジャパンで三つ星観光地に選ばれた東京・八王子の高尾山には、東京を訪れる外国人が登山するケースが増えている。都心から電車で50分ほどと近く、全登山者数は年間260万人に上る。こうした構図をリニア新幹線で各地に展開させることが可能になる。

 早稲田大学の伊藤滋特命教授は、まちづくりや観光開発に際しては、地域の個性を生かすことが重要だと説いている。仮に長野が山を訴求するのであれば、山梨は山以外、例えばJR身延線を使って海に誘導するといった訴求をすべきだと話す。

 リニア新幹線の利用者数は、JR東海にとっても自治体にとっても、多いほどよい。すべての関係者が利用者を増やすアイデアを出し続けることが重要だ。