3年ほど前、東京都内で賃貸マンションを探していたときの話だ。古そうだが割安な物件を見つけ、仲介会社の担当者に「この建物は新耐震基準でつくられていますか」と問うと、「シンタイシンキジュンって何でしょう」と逆に質問された。担当者は、その分野では大手と呼ばれる不動産会社の従業員。「プロのくせに、そんなことも知らねえのかよ」という本心は、口に出さなかった。“身体新基準”と聞こえているのかと思い直し、「どれくらいの地震に耐えるのかを定めた建物の設計基準です」と説明を加えた。

 かく言う筆者も、偉そうなことは言えない。十数年前、取材先で初めて「デューデリジェンス」という言葉を聞いたとき、知らずに恥をかいた。「詳細な調査」を意味する重要な言葉だと知り、家に帰って「デューデリジェンス、デューデリジェンス、デューデリジェンス・・・」と、何度も唱えたことを思い出す。

 環境の時代が到来し、実務者泣かせの言葉がさらに増えることになりそうだ。PALとERRである。ERRはそのまま「イーアールアール」と読むのに、PALは「ピーエーエル」ではなく「パル」と読むのでやっかいだ。双方とも、建築設備の世界では知られた、建物の設計段階における環境性能を示す指標である。

 PALは建物の断熱・遮熱性能を、単位面積当たりの年間熱負荷で示す。PALが小さい(PAL低減率が大きい)ほど「建物の断熱性能が高い」と評価できる。一方、ERRは設備の省エネ効率を、基準値からの低減率で示す。ERRが大きいほど「設備の省エネ性能が高い」と評価できる。

 実際に、どのような数値として示されるのか。

 例えば、2010年10月に東京都千代田区に開業予定の東急キャピトルタワー(永田町二丁目計画)の事務所部分は、PALが210.60MJ/m2・年(PAL低減率29.80%)、ERRが18.36%だ。東京都はPAL低減率が25%以上、ERRは35%以上の建物を、それぞれ「最も優れた取り組み」と定義している。従って、この建物はPAL低減率に基づき「断熱・遮熱性能がとても優れている」と位置づけられる。

 建物の評価を横並びにすると、建築主の考え方も見えてくる。ケンプラッツが東京都の公表データを基に主要なオフィスビルについて集計・比較したところ、不動産会社によってPAL低減率やERRの平均値が大きく異なる結果となった。ちなみに、この記事(不動産会社でこんなに違う、オフィスビルの環境性能)には、掲載から7日間で約1万4000件のアクセスがあった。