不動産会社や鉄道会社など、大規模なオフィスビルを複数手がける建築主ごとに建物の環境性能に関するデータを分析した結果、断熱性能や設備の効率を示す指標に大きな違いがあることが分かった。東京都の公表データを基に集計した。

 指標としたのは、建物の断熱性能や遮熱性能を熱負荷係数で表すPAL(パル)の低減率と、設備の省エネ効率を基準値からの低減率で示すERR(イーアールアール)だ。

 対象にしたのは、三井不動産、三菱地所、住友不動産、野村不動産、東日本旅客鉄道(JR東日本)、東京急行電鉄(東急電鉄)の6社だ。東京都の建築物環境計画書制度に基づく公表データから、建築主の欄に各社の名前が記されているオフィスビルを抽出した。

 各社のPAL低減率やERRの平均を示したのが下の表だ。なお、ここでは規模の大小にかかわらず1プロジェクトを1件と数えて平均を出している。

大規模なオフィスビルを複数手がける建築主別のPAL低減率とERRの平均値。( )内の数字は順位(資料:ケンプラッツ)
大規模なオフィスビルを複数手がける建築主別のPAL低減率とERRの平均値。( )内の数字は順位(資料:ケンプラッツ)

 PAL低減率の平均が最も高いのは東急電鉄のオフィスビルで25.37%。2位は三井不動産の24.12%、3位がJR東日本20.91%だ。ERRの平均が最も高いのは、JR東日本で35.20%。2位は三井不動産32.12%、3位が三菱地所24.90%だった。

 東京都は、PAL低減率が25%以上の建物、ERRが35%以上の建物を、それぞれ「最も優れた取り組み」と評価している。PALとERRの1位の企業は、この基準を上回っている。

 下位はどうか。PAL、ERRとも、5位が野村不動産、6位が住友不動産だった。各社の平均値をグラフにプロットするとこうなる。上位と下位では、PAL低減率で10ポイント、ERRでは20ポイント近い差がついている。

建築主別のPAL低減率とERRの平均値を示したグラフ(資料:ケンプラッツ)
建築主別のPAL低減率とERRの平均値を示したグラフ(資料:ケンプラッツ)

 不動産会社によって、大きな違いがあるのが現状だ。ビルの環境性能を高めることが建築主にとって必ずしもメリットがあるとは言いきれない現状がうかがえる。「性能アップにかかる費用に見合った見返りが、まだ十分に得られない」という判断があるのだろうか。環境性能の高い不動産には高い価値があると評価されるような、建築主をその気にさせる動機付けが必要だ。