ケンセツ的視点

区分所有権を「所有権」とは呼べなくなった日

2010/07/15

マンション
区分所有権
山岡淳一郎
区分所有法
建て替え
再生

 列島はまもなく梅雨明け。暑い夏とともに8月6日がまたやってくる。日本人のほとんどが「ヒロシマ」を想起するだろうこの日は、マンションに住む人にとっては別の意味で特別な日でもある。8年前の2002年8月6日、区分所有権が突然、「所有権」と呼べないレベルの権利に変えられることになったからだ。

 区分所有法改正を審議していた法制審議会の建物区分所有法部会がその舞台だった。2人の部外者が参考人として会場に乗り込み、居並ぶ20人の委員を強引に説き伏せ、それまで14回開かれた部会の議論の結論とは180度“真逆”の方向へ区分所有法を改正する案を、審議会答申に押し込んだのだ。

 それまでの区分所有法は建て替え決議を定めた62条で、管理組合が建物の建て替えを検討・議決できる条件として、マンションの老朽化を示す「客観的要件」を設けて制限をかけていた。ただ、この要件のなかにある「過分の費用」の内容が不明確で建て替えをめぐる紛争を助長しているという指摘が出ていたため、同部会は客観的要件の内容をさらに明確化し、「築後30年以上」などの条件を新たに加える方向で議論を積み重ね、詰めの作業に入っていた。ところがこの日、2人の参考人は客観的要件そのものを廃止するという全く別の方針を示し、答申に盛り込むことを迫った。

 その2人とは、森稔・森ビル社長と福井秀夫・政策研究大学院大学教授(肩書はいずれも当時)。小泉構造改革の推進役であった総合規制改革会議(議長:宮内義彦・オリックス会長)の委員と専門委員をそれぞれ務めていた、筋金入りの規制緩和論者だ。

 「都市再開発の現場では(反対して居座る)少数者こそ強者である」「5分の4の多数決があれば、それだけで建て替えの利益が維持利益を上回る蓋然(がいぜん)性が高い」──という2人の主張を、民法学者や弁護士などで構成された委員たちはその場で論破できなかったという。答申は両案併記になったが、結論は見えていた。年末の法改正で62条の客観的要件は廃止され、03年6月に施行された。

 この02年法改正により、マンションは築年数や老朽化の程度に関係なく、区分所有権者の5分の4以上が賛成すれば建て替えられるようになった。また、理由は何であれ、いったん建て替えが決定されれば、5分の1未満の少数派となった区分所有者は事業に参加する意思を示さない限り、「売り渡し請求」をかけられて住戸を強制的に追い出されることになり、少数者の居住権を保護すべきとする考え方は根本から否定された。

 02年の法改正は、区分所有権に関するそれまでの学説の流れを逸脱していたのかもしれない。07年に改訂された解説書『改訂版 区分所有法』(大成出版社)の序論で、編者を務めた民法学者丸山英氣・中央大学法科大学院教授(当時)はこう記している。

 「専有部分への権利が所有権だとするならば、昭和58年区分所有法での制約のもとでは、かろうじてその所有権性を保持していたといえるが、平成14年区分所有法では、もはや所有権といえないのではないか、との強い疑念が生じる」

 同書は500ページに及ぶ大著だが、このコメント以外、02年改正法の内容についてはほとんど触れていない。

老朽マンション再生の道筋を示す山岡淳一郎氏の近著


村田 真=建設局編集委員日経アーキテクチュア

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読者のコメント (4 件)  ※[ログイン]すると全文表示、投稿・投票ができます
なんだか「資本家は敵だ」的な文章で終わっている気がします。コミュニティが機能していないマンションは管理上も問題がありますから、多数意見に賛同しないものを追い出してコミュニティの意見を合わせることも必要だと思います。

他人の本の受け売りをして最後に「問題だ」というだけでは文章の価値がありません。
(Takkey 2010/07/21 20:05)

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5/4の議決で建て替えは合理的で客観的。そうでないと、少数の利害関係者のために、その他多くのものの利益が損なわれることになる。また建て替えの遅延は利便性のある土地の低利用により社会的な損失にもなる。そもそも区分所有法の所有は、通常の所有(私有)と異なることは、最初から明らかなことである
(tobikura 2010/07/15 17:03)

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森稔氏と福井秀夫氏の2人の部外者によって改正の方向性が変わったとの話は、山岡氏の前書で書かれていたことですが、本当にそうなのでしょうか。あれ以外の情報はみたことがないのですが。
また、建替え決議の要件を5分の4から過半数に下げようという動きを、福井秀夫氏などはしているという話も聞きますが、どうなのでしょうか。
そういうあたりについて、客観的な情報を現在進行形で報道してほしいものです。終わってしまったものに後から何を言っても仕方がありませんので。
(fm 2010/07/15 12:55)

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マンションの維持管理の話題では、最終的にコミュニティー復活、改善が重要という着地で終わりがちだ。しかし、すでにモンスター理事などによってコミュニティー崩壊に陥っていた場合、「仲良くしましょう」的な解決策を外部のアドバイザーから提示されても、身動きが取れないケースが多いと思う。下手な意見をして、裁判に持ち込まれる恐れ、いい大人でありながらイジメに至る恐れもある。おそらく、多くの人は買い替えを選択するのではないか。そういった個人の感情に満ち満ちた状況に介入し、大規模修繕を促進させるような、理想的な条例、何らかのシステムが生まれることを望んでいる。
(akisuke 2010/07/15 09:21)

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