設計事務所は工務店がいないと家を建てられない。一方、工務店は設計事務所と組まなくても家を建てられる。これらのことは、建設業許可を受けている設計事務所はあまり見掛けないが、建築士事務所として登録している工務店は多いことからも明らかだ。
家づくりにおいて、設計事務所と工務店の関係は大きく分けて3つある。(1)設計事務所が主導権を握るケース。建て主から依頼を受けて設計事務所が設計し、複数の工務店から見積もりを取るなどして施工者を選ぶ。(2)工務店が主導権を握るケース。建て主から依頼を受けた工務店が、申請業務やプラン作成などを下請けの設計事務所に発注する。(3)設計事務所と工務店が対等な立場で協働するケース。建て主から依頼を受けた工務店が、デザインや構造、設備など専門分野に秀でた設計事務所に特命で依頼する。もしくは、建て主から依頼を受けた設計事務所が、工務店に特命で工事を依頼する。
設計事務所にとって、(1)または(3)が理想だろう。とはいえ、事務所を運営していくうえで、不本意ながら(2)を選ばざるを得ない設計者もいるはずだ。私見だが、残念ながら(2)が最も多いのが実情ではないだろうか。
(1)の場合、工務店のメリットは何か。設計事務所案件を手掛ける複数の工務店に聞くと、「設計事務所が建て主を連れてきてくれるので、営業にまわらなくて済む」と口をそろえる。ほかに、雑誌やテレビで紹介されて知名度が高まる可能性もあるという。
しかし、一般的には設計事務所と組みたがらない工務店は多い。「設計段階ですべてを決めていない」「承認まで時間がかかる」「現場での変更が頻繁」――などが原因で手戻りが生じやすく、工務店の利益を圧迫するからだ。ただ、これらを無くすことは容易ではない。設計者には、独創性を発揮し、より高いレベルのクオリティーを窮める職能が求められる。それを怠っていては存在意義が揺らいでしまう。
(1)のように設計事務所が主導権を握りつつ、うまく仕事を進めるためには、どのような工務店と組むかが重要になる。設計者を“先生”扱いせず、「この図面ではつくれない」「こんな納め方はどうか」「追加費用はこれだけかかる」など、ためらわずにやり合える工務店を選びたい。
建て主にとっては、(3)のメリットが大きい。気心の知れた設計者と施工者の“チーム”であれば、安心して家づくりを任せられる。もちろん、なれ合いはご法度だが。
では、設計事務所が(3)を目指すにはどうすればいいか。工務店が持ち得ない「何か」を提示できるかどうかが、カギだと考える。設計料を取らない工務店は少なくないだけに、建て主が設計料を払ってでも頼みたいと考える「何か」が必要だ。