東京メトロに乗っていたときのことだ。建設中の東京スカイツリーの写真が載った駅張りのポスターに目を奪われた。「毎日すくすく成長中!東京スカイツリー 7月1日現在、完成まであと約236m(予定)。」というコピーが踊っていたからだ。

 新鮮だったのは、「完成まであと約236m」という数字だ。東京スカイツリーが、何メートルまで建ち上がったのかは、これまでも、さまざまなメディアで露出されてきた。しかし、カウントダウンの数字を大きくアピールしたケースはあまり目にしたことがなかった。「高さ333mの東京タワーを抜き、日本一の高さになったこともあって、今度はカウントダウンに切り替えたか。うまいなあ」と思わず唸ってしまった。

 カウントダウンの数字を載せることを思いついたのは誰なのか。気になってポスターを丹念に見てみた。すると、東京メトロで無料頒布している冊子「Let's Enjoy TOKYO」の「TOKYO TREND RANKING」のリニューアルを告知する広告だった。ポスターの内容は、そのままリニューアルされた冊子の表紙にも使われている。

東京メトロで無料頒布しているLet's Enjoy TOKYOの冊子「TOKYO TREND RANKING」の表紙
東京メトロで無料頒布しているLet's Enjoy TOKYOの冊子「TOKYO TREND RANKING」の表紙

 同冊子の編集を手掛けたLet's Enjoy TOKYO 東京トレンドランキング編集部の河野道久氏に聞いてみた。「東京で最も行きたい場所として名前が挙がる東京スカイツリーの魅力を、少しだけひねって伝えたいと考えた。多くの人が『今は398 m』と即答できるほど、高さについての情報は流れている。ただ、これからあと、何メートル伸びていくかを即答できる人はいないはず、と思った。それと、残りの高さをカウントダウンすることで、東京スカイツリーが完成するまでの期待感が表現できると思った」(河野氏)。

 カウントダウンの手法は、確かに期待感を高めるのに効果的だ。ロケットの打ち上げや新年を迎える際はもちろん、ワールドカップやオリンピックでも用いられる。ただ、建築にカウントダウンを活用するのは珍しい。634 mという高さ日本一を誇るプロジェクトだからこそ、できるものだとも言えよう。

 それにしても、市民に期待感や高揚感を感じてもらいながら完成を迎える建築はそうはない。その点で、東京スカイツリーは幸せな建物である。一つ学べることがあるとすれば、どんなプロジェクトであっても、計画の発表から建物が完成するまでの間を、もっと市民の期待を浴びられる時間へと変化させる工夫が必要だということだ。さまざまな建物に応用できる、完成までのプロセスをカウントダウンするための、ユニークなプレゼンテーション手法を思い付きたいものだ。