「大工さんにお茶を出すのが負担」――。リフォーム経験者を対象に実施したアンケート結果を読んでいたら、こんなコメントが目に止まった。リフォーム作業中に大工や専門の職人にお茶を出すという行為は、意外と住まい手にとってストレスになっているようだ。「お茶出しは不要」と事前に説明する工務店も少なくないが、それでも住まい手は「やはりお茶出しした方が…」「どうすればいいか」などと不安に思っていることがある。

 なぜ、住まい手はお茶出しにストレスを感じるのだろうか。要因の一つとして、「コミュニケーションが苦手な若い世代が嫌がっている…」と仮説を立てて、アンケート結果を再度読み直してみた。だが、お茶出しを「めんどう」と思っている人は年齢に関係していないようだ。50歳代、60歳代の住まい手からもお茶出しに対する不満の声が上がっていた。

 アンケートに寄せられたコメントを読んでいくと、ストレスに感じるポイントは、主に「お茶を出すタイミング」と「何人分用意すればいいのか」といった2つに絞られることがわかった。大工や職人によっては、定時に休憩を取らず、自分のペースで休む人もいる。また、作業によっては、複数の職人が出たり入ったりしていることもある。そのような場合、いちいち作業の様子を気にしていなくてはならないのでは、住まい手にとってストレスになるだろう。

 どうすればこの「お茶出しストレス」を解消することが出来るだろうか――。そんなとき、あるウェブ上のコミュニティーサイトで、住まい手同士で「お茶出し」に対する悩みを相談し合う議論が起きているのを見付けた。その回答の一つに「出すタイミングがわからないので、ポットにお茶を入れて置いておくことにした」という書き込みがあった。なるほど、これは良い案かもしれない。リフォームの最中だった我が家で、早速実践してみた。

菓子の減り具合から作業風景を想像

 これまでは我が家でも、ご多分に漏れずお茶出しのタイミングがわからなく悩んでいた。結局、缶コーヒーを買いだめしておき、それを朝に渡すことで、お茶出しの代わりにしていた。しかし、当日の作業人数に対し買い置きの缶コーヒーの数が足りるか、ドキドキしながら様子をうかがっていたものだ。コミュニティサイトで読んだアイデアをベースに、次のような方法に変えた。

 用意したのは、3種類だけ。菓子を入れるためのふた付きの箱。ビニールに入っている紙コップ。そして、1L程度の容量があるポット。リフォーム作業中のホコリや木くずがかかっても大丈夫なものを選びたい。置く場所を確保できるように、お盆などもあると良いだろう。

 箱は中を小分けにできるものを選び、それぞれのスペースに菓子を入れた。菓子は個別包装のクッキーや煎餅などを用意。汚れた手をふけるように、ウェットティッシュも入れておいた。

 ポットには、季節がら、冷たい麦茶を入れた。紙コップは24個入りのものを用意したので、複数の人がいても大丈夫だ。こうして用意したのが、下の写真の「お茶出しセット」だ。

リフォーム工事でお茶出し用として用意したセット(写真:日経ホームビルダー)
リフォーム工事でお茶出し用として用意したセット(写真:日経ホームビルダー)

 このセットを、作業が始まる前に定位置に置いておけば準備完了。朝、大工や職人が来たときに、「今日は暑いですね、冷たいお茶とお菓子を用意しておきましたのでどうぞ」と一言声掛ける。この方法を試したところ、自分が予想していた以上の効果を感じる結果となった。

 共働きの我が家の場合、日中の家には誰もいなくなるため作業はすべて大工任せ。作業の様子もわからない。もちろん、その日の作業内容や進ちょく状況などは、朝、大工や職人と言葉を交わすことで、ある程度把握していた。だが、お菓子も含めたお茶出しセットに変更してからは、まるで大工と交換日記をしているかのように、作業の雰囲気まで想像出来るようになった。

 夕方帰宅して、「今日はどれくらいお菓子が減っているのかな?」「暑かったからポットの中身は空っぽかな?」など、ワクワクしながら回収する。用意した菓子の数の減り具合によっては「今日は体力仕事だったので、甘いものが人気だった」「今日は年配の職人さんだったからクッキーよりもせんべいの方が人気だった」と日中の作業の様子をつい想像してしまう。若い職人が多いときは、やはりお腹が空くのか、菓子の減りも早い。菓子を口に放り込んで、作業を頑張る姿が見えてくるようだ。

 今回の体験を通して、「お茶出しは不要」と一方的に建て主に断りを入れるのではなく、「お茶出しは不要だが、もし用意してもらえるのであれば、このような方法もある」などアドバイスをしてあげるのもよいと思った。お茶出しをしないことが住まい手のストレスをなくすのではなく、お茶出しを活用することでストレスを少なくすることもある。

 お茶出しは単なる形式ではない。方法によっては、大工や職人と住まい手のコミュニケーションを良くし、一緒に家を作るという一体感を生み出す良いきっかけにもなるのではないだろうか。