経済産業省によると、スマートハウスとは「エネルギー等についての需要情報と供給情報を活用することによって最適制御された住宅」のことである。家電機器や、太陽電池などの設備について、エネルギーの需要・供給データを一元管理することで、効率的に省エネを進めていこうというものだ。スマートグリッド(効率的な電力網。ITを使った電力インフラの高度化)の整備・普及が進めば、スマートハウスからの情報と連携して地域でのエネルギー制御にも活用できる。

 では、スマートハウスが普及すると、住宅業界にはどのような恩恵がもたらされるのだろうか。普及の過程では、いち早く「スマートハウス対応」を掲げて受注の武器にする住宅会社が出てくるかもしれない。電気自動車用の充電スタンドや、蓄電池などから直流給電するための機器・システムなど、関連設備の需要も期待できそうだ。だが、住宅会社や工務店に広く恩恵がもたらされるかというと、あまり大きな期待はできないように思えてしまう。私の考えが浅いのだろうか。

 短絡的な発想かもしれないが、まず思い浮かんだのは、スマートハウス対応の機器類が、将来の「住宅エコポイント」(のような制度)の対象となる可能性だ。しかし、そこで需要が喚起されたとして、住宅会社や工務店経由で機器を購入する人がどれだけいるだろうか。

 大手住宅会社が、自ら供給する住宅とセットでエネルギー見える化のための機器を販売したり、データを管理して省エネのアドバイスをしたりするビジネスも考えられそうだ。さらに、個人情報保護の問題をクリアして各家庭のデータを集積したり、あるいは、同じネットワークを活用して、住宅内にセンサーを設置して室内の様子を監視できるようにすれば、何らかのビジネスが成り立つかもしれない。

 とはいえ、そもそもエンドユーザー向けに高額の機器やサービスを追加で売るのは難しい。かといって単価を安くすれば、日本の住宅は大手メーカーでもシェアは小さいので、自社物件の分だけではそうそう大きなビジネスにはなりそうもない。

 こうしたビジネスを展開していくなら、自社物件を超えてユーザー数を増やしたいところだ。そうなると、電力、家電、ITベンダーなど多くの競合相手が出てくるだろう。思わぬ伏兵が出て来ないとも限らない。英国では、アラートミー(AlertMe)というベンチャー企業が話題になっている(『日経ビジネス』2010年5月10日号「クラウド使い低炭素家庭を」などを参照)。同社は、住宅のエネルギー見える化のための安価な機器の販売と、そこから得た電力消費などのデータをオンラインで提供するサービスを行っており、年内に数十万人の利用者の獲得を目指しているという。住宅会社がこの市場で勝ち抜けたとしても、特定の何社かだけの話であり、業界全体が活況を呈するということにはならないのではないか。

 政府がコミットし、幅広い産業分野から大手企業が参画するスマートグリッドやスマートハウス推進の流れは、もはや不可逆であるように思われる。そのなかで、住宅業界全体をけん引するようなビジネスモデルは考えられるのだろうか。残念ながら今のところ私にはそうした知恵はないが、よいアイデアをお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ取材させていただきたいと思っている。