室内に充満した揮発性化学物質が健康被害をもたらすシックハウス症候群を巡り、札幌市で次々と問題が噴出している。事の発端は、児童会館の改修後に職員が体調不良を訴えたこと。調査を進めていくうちに、多くの施設で市が定めた化学物質調査を実施していなかったなどの問題が発覚した。

 災害は忘れたころにやってくる。建築基準法にシックハウス対策が盛り込まれたのは2003年のこと。施行から既に7年近くがたち、終息に向かっていた。再発を防ぐためには、関係者がシックハウス問題をいま一度思い起こし、事に取り組む必要がある。

トルエンの濃度が基準値の26倍

 一連の騒動のきっかけは、3月22日に市の「宮の沢児童会館」で実施した改修工事だ。床材をじゅうたんからコルクに張り替えた。竣工後に1人の職員が、「唇が腫れる」「指先が冷たくなる」などの症状を訴えたことから、市が室内の化学物質濃度を調査した。

 その結果、揮発性化学物質の一つであるトルエンの濃度が国の指針値を大きく超えていたことが、4月2日に判明した。指針値は260μg/m3であるのに対し、1回目の調査で6000μg/m3、2回目は6800μg/m3と、最大26倍の測定値を示した。コルクを張る際に使用した接着剤の成分を確認したところ、トルエンを含んでいることが分かった。

 建築基準法のシックハウス対策では、トルエンは規制対象外であるものの、厚生労働省がトルエンを含む13物質について指針値を示している。文部科学省は学校の教室内で、トルエンやホルムアルデヒドなど6物質の濃度を定期的に測定するよう定めている。

 札幌市では2005年に「札幌市公共建築物シックハウス対策指針」を策定し、さらに多くの部局が独自に取扱要領を定めた。宮の沢児童会館を管理する市の「子ども未来局」の取扱要領では、小規模な改修の場合、原則として簡易測定する。ただし、製品安全データシート(MSDS)などで安全性が確認できる場合は、簡易測定を省略してよいと定めている。

 かつては、接着剤や塗料の溶剤にトルエンがよく使われていた。油にも水にもよくなじみ速乾性があることから、優れた溶剤と位置付けられていた。法的なシックハウス対策が進むにつれ、内装用ではトルエン非含有の製品が増えていった。床や壁などの建材メーカーは、トルエン非含有の接着剤を使うよう推奨するようになった。