岩手県の達増拓也知事は4月9日、県発注の学校や病院の建築工事をめぐる談合問題で、建設会社76社と1共同企業体に対して、原則12カ月のところ、半分に当たる6カ月の指名停止措置を発表した。現在の厳しい経済・雇用情勢を考慮し、県民の暮らしと雇用を守る観点から、最大限の配慮をするために特別の決定を下した。

 記者会見で達増知事は、「経営の破綻とか、それに関連しての失業とか、そういったことがこれだけのスケールになってくると当該関係企業だけにとどまらない。規模が広がってくれば、取引先企業とか、商店街や飲食店とか、そういったところにまで効果が及ぶ危険性がある。そういう最悪の事態を避けるために期間を6カ月とした」と説明した。

 県の基準を見ると、情状酌量すべき特別の事由がある場合は、知事の判断で指名停止期間を2分の1まで短縮できる。達増知事は、指名停止期間の半減の理由を「今回限りの総合的な判断による決定」と話している。つまり、指名停止期間の半減は、情状酌量すべき特別の事由があったからということではなく、知事の独断だということだ。

 日経コンストラクション09年12月25日号に掲載した「談合倒産の悲鳴」という記事を思い出す。奈良市が談合を理由に201社を指名停止にした事例を取り上げた。当時も建設会社の経営悪化が懸念されていた。

 奈良市の場合は、201社を市の基準に従って、09年9月から2年間の指名停止にした。奈良市はその5カ月前に指名停止期間を1年間から2年間に延長したばかりだった。強化されたペナルティーの適用で、奈良市内の建設会社はおののいていた。12月の時点では、4社ほどが廃業していたが、水面下では事実上廃業した会社がたくさんあった。奈良市でも指名停止措置の軽減をめぐって、建設会社との攻防が続いている。

 談合に対するペナルティーの一つに指名停止措置が位置づけられている。経済・雇用情勢が厳しいのは、談合にかかわっていなかった建設会社にも当てはまることだ。指名停止期間の短縮によって、談合をしていた建設会社が早期に市場に戻ってきたせいで、誠実に頑張っているほかの建設会社が苦境に陥るといったことも考えられなくはない。岩手県の達増知事は、そういった点まで踏まえて決断したのか。指名停止期間短縮の判断を疑問に思う。