「最近、既存の塀に気をつけなくてはいけなくなった」
 アトリエ・天工人の山下保博代表から、こんな話を聞いたのは2009年12月のことだった。「07年に改正建築基準法が施行される前は、既存のコンクリートブロック塀に関するデータを特定行政庁が求めることはあまりなかった。しかし、ここ最近は既存塀の強度を示す資料を求められ、資料がなかったり、強度が足りなかったりすると、構造補強や再築造を求められることが増えた」というのだ。

 同様の話を、宮谷設計の宮谷敦代表からも聞いた。宮谷氏は次のように語った。

 東京都内で住宅の設計を受注した。敷地には、昭和40年代に築造された、高さ約1.6mのコンクリートブロックの塀があった。控え壁はなく、鉄筋の有無を確認できる図面など強度を示す資料は一切なかった。

 確認申請を提出しようとしたところ、建築主事から「既存塀が建築基準法施行令第62条の8を満たしていなければ、建築確認を下ろすことができない。何らかの安全策を打ってほしい」と言われた。つまり、「長さ3.4m以下ごとに、径9mm以上の鉄筋を配置した控え壁で基礎の部分において壁面から高さの5分の1以上突出したものを設けること」「径9mm以上の鉄筋を縦横に80cm以下の間隔で配置すること」といった、施行令62条の8の規定を満たさなければいけなくなった。

 控え壁を設置するのはまだしも、鉄筋の確認が難しい。超音波検査なら鉄筋の有無や間隔は分かるが、直径までは分からない。X線検査で調べれば鉄筋の直径まで判別できるが、30万円程度の費用が発生する。もちろん、既存塀を撤去して、現行の構造規定を満たす塀を築造し直せば解決する。しかし、40万~50万円程度の費用が新たに発生する。

 この既存塀は隣地境界線上にある共有塀なので、隣地所有者の合意なくして撤去や再築造はできない。現在、塀の上部をコンクリートカッターで削り、高さを1.2m以内に押さえるなどして、構造規定の適用をある程度免れないか、特定行政庁と交渉中だ。隣地所有者との交渉は、その結果が出てからになる――。