相変わらず混雑の激しい東京の鉄道の通勤ラッシュ。路線によっては、朝のピーク1時間当たりの乗車率が200%前後と、すし詰め状態だ。鉄道会社にとってラッシュの緩和は、今なお最重要施策の一つになっている。

 一方の利用者にしてみれば、「早起きは三文の徳」だが「言うは易く行うは難し」といったところか。多くの人は始業時間から逆算して起床や出社の時間を決める。その結果、一定の時間帯の列車に多くの人が集中している。

 利用者になんとか早めに出社してもらおうと、動機付けを試みる取り組みがある。東京急行電鉄(東急電鉄)と東京地下鉄(東京メトロ)の「早起きキャンペーン」がそれだ。朝ラッシュのピーク前に乗車した人に対して特典を与えることで、混雑の緩和をもくろむ。どの程度の効果が見込めるのか、ほかへの応用は可能か。

東急田園都市線でこの冬初めて実施

 東急電鉄が実施したのは「田園都市線『早起き応援キャンペーン』」だ。田園都市線の中央林間-池尻大橋間で所定時刻前に乗車すると、都心部で朝食や喫茶などの割引が受けられる。2009年11月に5000人を募集して、12月1日~18日の平日にキャンペーンを実施した。

 ICカードの乗車・定期券である「PASMO(パスモ)」を所定時刻前に自動改札にかざすと、携帯電話に電子メールでクーポンが届く。これを店舗で提示して当日限りの特典を受ける。対象店舗は、牛丼店の「吉野家」、喫茶店の「エクセルシオールカフェ」、スポーツクラブの「ティップネス」の3社152店に加え、東急電鉄が運営する語学学校の「東急セミナーBE渋谷校」だ。例えば吉野家であれば、朝定食が50円引きになる。

店舗名 対象店舗 特典(税込み)
吉野家 渋谷、千代田、港、品川、新宿、中央、豊島の7区内68店舗 朝定食を50円引き。5時~10時
エクセルシオールカフェ 渋谷、千代田、港、品川、新宿、中央、豊島の7区内78店舗 コーヒーかカフェラテのサイズをアップ(SはMに、MはLに)。開店~11時
ティップネス 渋谷、新宿、池袋、五反田、六本木、TIPNESS ONE 日比谷の6店舗 7時~10時のモーニング利用を1回500円に
東急セミナーBE 渋谷校 朝専用語学クラスを25%割引(1回3150円に)
田園都市線「早起き応援キャンペーン」参加者が受けられる特典の概要 (資料:東急電鉄の発表資料を基にケンプラッツが作成)

 同線が最も混雑するのは、池尻大橋駅から渋谷駅までだ。2008年度はピーク1時間当たりの混雑率が193%だった。都心への路線を持つ私鉄7社の主要12区間中、最も高い数値だ。冬は利用者が厚着になることから、車内の混雑がより激しくなる「着膨れラッシュ」が起こる。こうした背景から、冬季にキャンペーンを実施した。

 同社はこれまで、様々なラッシュ対策を実施してきた。大きな投資としては、同線の二子玉川駅で枝分かれする大井町線の改良が挙げられる。都心への新たなルートとして利用しやすくするため、一部区間を複々線にしたうえ急行列車を設定した。

 数キロメーロル南に並行する同社目黒線の輸送力増強工事も、実は田園都市線のラッシュ対策という側面がある。横浜市北部に港北ニュータウンが広がっており、整備が進むにつれて都内への通勤者が増えている。これまでは、横浜市営地下鉄ブルーライン(3号線)に乗車し、あざみの駅で田園都市線に乗り換えるのが一般的だった。08年に港北ニュータウンを通るもう一つの路線、市営地下鉄グリーンライン(4号線)が完成した。ほぼ同時に工事が終わった目黒線とは、日吉駅で相互に乗り換えられ、都心への新ルートが整備された。

 田園都市線自体の改善については、増発を繰り返し、最小約2分間隔で列車を運行している。座席を畳んで立ち面積を増やし、全体として収容力を向上させた車両を、10両編成中3両に導入した。さらに、ピーク時は急行運転を取りやめて、急行に乗客が集中しないようにした。

 そしてこの冬、ソフト面での対策として早起きキャンペーンを実施した。