「調査官が “狙い撃ち”しているせいもあるのだろうが、毎年のように同種の設計ミスが指摘されている」。ある会計検査院OBは、この数年間の会計検査の報告書の内容を踏まえてこう話す。

 公共事業に関して調査官が調査の対象としているのは、構造物の設計や施工のミスだけではない。最近では、事業の効果を問うものなど、以前に比べて範囲が広がっている。調査では1日に十数件もの案件に目を通すので、一つひとつを丹念に見ている時間はない。そうした条件のなかで効率よくミスを指摘するために、調査官はポイントを絞って調査に当たっているのだ。

 「前年度に指摘のあった案件と同じような事例は詳しくチェックするので、ミスを発見しやすい」。「基準類が改訂された直後は、発注者によって理解が不十分な場合があり、設計の問題点を指摘しやすい」。「基準類などについての理解が広まると、指摘の件数は減ってくる。すると調査官は、また別の指摘事例をもとにチェックをしてミスを発見する。この繰り返しだ」。現役の調査官やOBたちからは、こんな話を聞いた。

 調査官らが話すこれらのチェックポイントは、重箱の隅をつつくようなレベルのものではない。指摘の根拠はオープンになっている情報だ。ところが、会計検査の報告書を見ていると、過去の指摘事例と同じ間違いを繰り返している例がある。この数年では、落橋防止装置に関するミスの指摘が多い。「設計者や発注者の技術力は低下しているし、会計検査に対するある種の警戒心のようなものも薄れてきた」。OBのひとりは、こう言って嘆く。

 2008年度の報告書では、構造物の安全性に問題ありという指摘が目に付いた。せっかく人々の生活を支えるために造ったインフラストラクチャーが、安全を脅かすようなものであってはならない。設計ミスを防ぐために、基本に立ち返ることが必要だ。指摘事例を対岸の火災視せず、まずは自身の業務に生かしたい。