「世界戦略」について語りたい。それも、建設業界ではない企業が仕掛け始めたそれだ。建設業界の方々がご覧になるコラムに、一見そぐわないように思われるかもしれない。だが、そのメーンコンセプトが「街づくり」だとしたらどうか。しかもそれが、世界の骨組みを変えようとする――あるいは建設業界をはじめ、あらゆる業界をモジュール化しかねない――ものだとしたら。

 具体的には、IT(情報技術)業界のビッグカンパニーである米IBMが2008年末に公表し、いまや全世界の同社現地法人が実行段階に移し始めた「Smarter Planet(スマーター・プラネット)」と呼ばれるビジョンだ。「(ITを活用して)地球規模のさまざまな課題を解決し、地球をより賢くしていく」という説明がされているが、その中身をストレートに言えば、「(世界中の)街づくりは我々に任せなさい」ということである。

 Smarter Planetの要旨は、邦訳された同社の資料「よりスマートな都市へのビジョン~持続可能な都市の未来を考える」が、最も分かりやすい。この中では都市のコアシステムを都市サービスと市民、ビジネス、交通、通信、水、エネルギーの七つに分け、「魅力的で効率的な都市のあるべき姿」を検証している。しかし17ページにもわたるこの資料の中には、「建設」「建築」「住まい」といった用語が一度も登場しない。まるでそんなものは眼中にないといった感じに。

 筆者が抱いた思いは二つある。一つは業界を超えた、企業の戦略面の変化だ。IBMをはじめとするワールド企業は、わずか1年強のうちに明らかに戦略を「2段階」上げ、ビジネスの対象を国家とその近辺にいる為政者たちに絞り始めた。事実、2009年10月に同社がニューヨークで開催した「Smarter Cities Forum」には世界25カ国、180都市の市長と自治体幹部、企業経営者、都市問題専門家が500人以上も集結したという。

 ここで言う2段階とは、「御用聞き営業」から「ソリューション営業(提案)」へという段階を超え、「(営業行為がなくとも)自動的かつ必然的に選ばれる企業」に向けて、戦略をビジョン重視に切り替えたということだ。もちろん成否は全く不明である。そして我が建設業界といえば、失礼だが第1段階の周辺でうろうろしているだけではないのだろうか。