改正省エネ法の施行に合わせて、企業や公共団体は「エネルギー使用量の見える化」を迫られている。そのための計測・管理サービスに参入する企業も多い。ここではいちいち例は挙げないが、建設、不動産関連企業のみならず、情報システム、電機メーカー、商社なども法改正の商機に敏感に反応している。

 日々の食事と体重をメモして意識を高めることで体重を減らす「レコーディング・ダイエット」ではないが、企業が省エネを進めるためには、まずは自らのエネルギー使用実態の把握が必要だ。しかし、自社の実態を把握し対策を講じるだけでは十分とはいえない。がんばって省エネ対策を講じているつもりでも、その取り組みは井の中の蛙に過ぎない可能性があるからだ。やはり同業他社などと比較したうえで、自社の取り組みが世の中でどの位置にあるのかも知っておくべきだろう。そのためにはベンチマークのためのデータ集積が必要だ。

 実は、建築物のエネルギー消費に関する横断的なデータの収集は既に進行中だ。財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)の「非住宅建築物のエネルギー消費量に係わるデータベース」 (DECC:Data-base for Energy Commercial building)である。データベースの基となった「各種建築物のエネルギー消費構造調査」では、全国の事務所・官公庁・商業・宿泊・教育施設などに対してアンケートを実施し、1万6510の回答を得ている(2008年度実績)。

 ただし、このデータは現時点では公開されておらず、IBEC主催のシンポジウムの発表資料として分析結果の一部が表に出ているだけだ。IBECでは3年計画で調査を実施しており、3年目に当たる今年度(2009年度)の調査結果がまとまった段階での公開を予定している。

 こうしたデータを真に必要としているのは、省エネ対策の実施主体、つまりユーザー企業だろう。まずはできるだけ早期に、このデータに適切な対価を支払えば誰もがアクセスができる形を整えるべきだ。さらに言えば、データの分析や活用法の検討について、ユーザー企業をもっと巻き込んでいく仕掛けを考えてもよいのではないか。

 IBECが昨年11月に開催したシンポジウム(「非住宅建築物(民生業務部門)のエネルギー消費実態に関するシンポジウム」)におけるデータ分析の発表者は、全員が大学の研究者であり、建築物の利用者側からの発表はなかった。建設業界がこれからストックのビジネスに移らざるを得ないとすれば、ユーザーを巻き込むことがこれまで以上に重要になってくる。ユーザー企業の省エネ意識が高まった方が、関連ビジネスのチャンスはより増えるはずだからだ。