民主党は新直轄方式の廃止を要望

 民主党が政府に対して提出した重点要望は、全国各地から寄せられた約2800件の陳情がベースになった。小沢一郎代表は「党というより全国民からの要望である」と強調した。マニフェストの目玉として打ち出した高速道路無料化は推進する方針を維持する一方、高速道路の整備に関する要望も盛り込んだ。高速道路に関する項目は次のようなものだった。

<高速道路の整備>
(1)平成22年度(2010年度)において、高速道路会社による高速道路整備を推進するため、利便増進事業を抜本的に見直すとともに、いわゆる新直轄事業を取り止め、これに見合う額を国が高速道路会社に対し支援する。また所要の法律を手当てする。
(2)平成23年度以降の新たな高速道路建設促進の枠組みとして、全国統一の料金設定、国の高速道路建設の高速道路会社への一本化をはかるとともに、地方自らが、必要とする高速道路建設を行うことができるようにするための国の支援策を検討し、来年(2010年)6月中に政府として成案を得る。

<高速道路の無料化>
高速道路の無料化については、割引率の順次拡大や統一料金制度の導入など社会実験を実施し、その影響を確認しながら段階的に進める。なお、実施に当たっては、軽自動車に対する負担の軽減を図ることとする。

 さらに、翌17日には、民主、社民、国民新の与党3党が幹事長名で次のような重点要望を提出している。民主党の重点要望から踏み込んで、“ミッシングリンク”と呼ばれる高速道路整備の空白地帯の解消を訴えた。高速道路無料化に関しては、社民党が先送りを主張しており、与党3党の要望に言及はない。

全国の高速道路網(東北、山陰、四国、九州)における空白地帯を解消し、道路網の整備を進める。

 民主党が突き付けた高速道路整備のあり方の見直し。これは、小泉政権下で進められた道路公団民営化の再検証を意味するものだ。

 ポイントは、新直轄方式の廃止だ。新直轄事業とは、採算性に乏しい路線を中心に高速道路会社ではなく国が整備主体となって建設する仕組みだ。道路公団を民営化する際に、不採算の道路が野放図につくられることを防ぐ目的で導入された。高速道路会社は採算の取れる道路だけを建設、不採算でも必要な道路は新直轄方式で建設する2本立ての形に落ち着いた経緯がある。新直轄方式の廃止とは、この高速道路整備の事業スキームを見直すことだ。

 そこで問題となるのが財源だ。党の要望では「利便増進事業を抜本的に見直す」と記された。利便増進事業とは、ETC搭載車を対象に自公政権が実施した「上限1000円」の高速道路料金割引のことだ。高速道路会社の減収分として国が負担している財源を、高速道路建設に回すように求めていると解釈できる。

唐突な民主党要望に戸惑いも

 料金収入と国の財政支援を合わせてすべての道路をつくるスキームは、民営化前の道路公団と同様のもの。新聞報道では「改革に逆行している」との声が上がった。通行料を無料にし、必要な道路は税金でつくるという民主党の公約とも矛盾する。マニフェストに従って矢継ぎ早に政策転換を打ち出した前原国交相としては、唐突感があったことは想像に難くない。

 要望の文面にはあいまいな表現も多く、解釈を巡って様々な憶測を呼んだ。民主党からの詳しい説明もなかったようだ。12月17日に開かれた国交省政策会議に参加した民主党議員から重点要望について質問が出た際、政務三役は答えることができなかったという。「あれは(民主)党が出したもの。(議員の)皆さんから意味を説明してもらわないと困る」と述べた辻元清美副大臣は、戸惑いを隠せなかった。

 道路事業見直しを担当する馬淵澄夫副大臣も12月21日の会見で、新直轄事業の見直しについて問われ、「どういった意図で書かれているか。幾重にも読み取れる部分がある。党の要望を詳細に詰めながら、最終の判断は総理のリーダーシップに基づくものになる」と慎重な物言いに終始した。