政権交代が起きてから、公共事業中止や凍結、事業費削減など、公共事業への厳しい風当たりを目にする機会が増えている。前原誠司国土交通相は、群馬県の八ツ場ダムの事業中止を明言した。行政刷新会議の「事業仕分け」では、要求額200億円の「国土・景観形成事業推進調整費」が廃止された。

 日経コンストラクション11月27日号のトピックスでは、公共事業が差し止められた判決を二つ取り上げた。

 一つは広島県福山市の鞆の浦(とものうら)埋め立て免許差し止め請求裁判。原告は福山市の住民で、被告は広島県知事だ。広島地方裁判所は10月1日、鞆の浦の港湾を埋め立てて橋を架ければ、居住者の景観利益が損なわれると判決を下して、原告側が勝訴した。広島県は判決を不服として控訴。その後の県知事選で当選した湯崎英彦知事が、事業推進派と反対派で対話の場を設けることを表明した。

 もう一つは沖縄県沖縄市の泡瀬干潟埋め立て公金支出差し止め請求裁判だ。沖縄市民が県知事と市長を訴えた。福岡高等裁判所那覇支部は10月15日、埋め立て計画の経済的合理性の調査や検討が不十分と判決を下し、原告側が勝訴した。沖縄市は上告を断念し、土地利用計画を見直す意向を示した。

 公共事業をめぐって、政治による中止表明であれ、司法による差し止め判決であれ、共通して言えることは、従来の行政の裁量権に疑問を投げかけているということだ。最終的に埋め立ての免許を交付するのは行政なのだが、計画や事業の過程で、外部有識者や住民などの意見を、行政がどこまで踏まえるべきなのかを問われる判決だった。

 例えば、鞆の浦では、世界遺産登録の審査などをしている国際記念物遺跡会議(イコモス)が「鞆の浦を保存すべきだ」との勧告を出していた。さらに、イコモスの小委員会は、保存すべき理由を盛り込んだ報告書を自主的に作成した。報告書では、広島県や福山市がまとめた資料を引き合いに出して、調査、検討の不十分さや事業方針の矛盾点などを指摘している。行政の対応について、鞆の浦に居住する原告側の松居秀子事務局長は「行政は、埋め立て架橋ありきの意見交換会しか開催しなかった」と説明する。

 広島地方裁判所が下した判決には、イコモスの報告書や反対派住民の主張を踏まえた指摘が多数盛り込まれた。行政は少数の反対派からの意見を、軽視するわけにはいかないとも読み取れる。

 一方で、推進派からは「地方のことは地方で解決する。外部(有識者や著名人)は関係ない」という意見が上がった。この意見を聞くまでもなく、事業推進のプロフェッショナルとして地方行政が果たす責任は大きい。それはあくまで、地方行政に景観や環境への知識などがあるという前提での話だが。

 近年の公共事業では、多様化する価値観への配慮が従来以上に求められている。地方行政が「配慮」できなければ、外部有識者などの力を借りざるを得ない。そのとき、外部の意見が事業方針に沿わないとしても、行政はいったんは重く受け止めて判断するという寛容な態度が必要だ。