日経ホームビルダー編集部はいま、築40年程度の木造住宅の基礎にどれくらいの構造耐力が残っているか調べる実験を企画中だ。基礎の実物から試験体を数十個切り出した。試験体は直方体をしていて、長さが20~30cm程度、幅10cm強、高さは30~40cm程度だ。

 取材先となっている工務店のうち数十社に、この秋、建て替えのために、東京からあまり遠くないところで既存住宅を解体する予定はないかと、情報提供を依頼した。気温よりもずっと早く冷えこんだ市況を考えると、集まってくる情報はかなり少ないのではないかと予想していた。

 ところが、実際には計10件程度と、期待した以上に多くの情報が寄せられた。ありがたく思い、不況下でも仕事をつかむ工務店のたくましさに敬意を覚える一方で、別の感慨もあった。「日本の住宅の平均寿命は30年程度しかないといわれるが、実際に築年数が30年を過ぎると、住宅はどんどん壊されていくのだな」と。

 正直なところ、「もったいない」ばかりではなく「壊されても仕方がないのかもしれない」という思いも込めた感慨だった。築40年程度ともなると、基礎だけ見ても無筋が一般的で、仮にコンクリートの状態が良好だとしても、構造耐力は新築の基礎とは比較になるまい。どこまで補強すれば十分か容易にはわからない既存の基礎を当てにするよりも、つくり替えたほうが早いと住宅建設の実務者が判断するのは、無理のないことだと思う。

 ただ、工務店が「補強よりもつくり替えを」という判断を実行に移すには、もちろん建て主の同意を得る必要がある。今後、経済の低迷と環境重視の時勢の影響で、この同意を得にくくなるケースが増えていくのではないか。

 お金も時間もかけて試験体集めに精を出すホームビルダー編集部の面々に対して、協力してくれた工務店の人々のなかには「あれは本来、ゴミなのに」と首をかしげた向きもあったかもしれない。しかし今後、工務店の多くも40年前の基礎をゴミ扱いできず、補強に取り組まなければならない時代が来るかもしれない。そうした時代の到来に備えたデータを、今回の実験で導き出したいのだ。

築40年程度の木造住宅の基礎をカットしてつくった試験体。コンクリートとはいえ無筋で、経年劣化でもろくなっている恐れもあるため、運送会社は毛布に包んで運搬した(写真:日経ホームビルダー)
築40年程度の木造住宅の基礎をカットしてつくった試験体。コンクリートとはいえ無筋で、経年劣化でもろくなっている恐れもあるため、運送会社は毛布に包んで運搬した(写真:日経ホームビルダー)