前原誠司国土交通相の発言で、にわかに盛り上がる「羽田ハブ空港化」。神奈川県の松沢成文知事は10月29日、前原国交相と会談。羽田空港と成田空港をリニア新線で結ぶ「超高速鉄道整備構想」をアピールした。松沢知事は会談後の会見で、「未来への公共投資だ」、「議論を巻き起こしたい」と意気込みを語った。
リニア新線構想は、大深度地下にリニアを走らせ、15分程度で羽田空港と成田空港間を結ぶ構想だ。神奈川県は、建設費を約1兆3000億円、経済波及効果を約2兆9000億円と試算している。松沢知事は会見で、リニア新線整備のメリットについて(1)国際水準の首都圏空港の実現(2)首都圏住民の空港アクセスの向上(3)首都圏の業務核都市の育成(4)モーダルシフト(自動車から鉄道や船舶へ、人や貨物の輸送を切り替えること)による地球環境保全への貢献(5)未来に向けての公共投資と技術開発――などを挙げ、「二つの空港を運用で一体化するのは限界がある。物理的に一体化する発想が必要だ」と持論を語った。
松沢知事は、「前原国交相は興味を持ってくれた。前政権より反応はいい」と上機嫌だった。会談では、前原国交相の肝いりで発足した「国土交通省成長戦略会議」で、リニア新線構想についてプレゼンする約束を取り付けた。成長戦略会議での議論のテーマであるゼネコンの国際展開、観光立国の推進、空港ハブ化に対する一つの解答を示すものだったからだ。松沢知事は会見で「スタート台に立った」と期待感を示した。
自治体の“提案力”が問われる
民主党が掲げる「コンクリートから人へ」のスローガン。少子高齢化、巨額の財政赤字などを背景に公共事業削減の大号令がかかる中、「選択と集中」が進むことは避けられない。一方で、政権交代によって過去の政策のしがらみや既得権益の呪縛が解かれ、思い切った政策を打ち出す可能性も出てきた。キーワードの一つが「成長戦略」だ。国が手掛けるべき公共事業とは何かが、改めて問われている。
前原国交相は10月23日の会見で、従来型の公共事業と言える整備新幹線に言及し、次のように述べた。「全ての公共事業においてパイが縮小していく中でしっかり精査をする。それは国民を説得できるものでなければならない」、「国土交通省につくって下さいという要望をされるのであれば、国民が納得するような資料を持ってきていただいて、それを踏まえて整備の要望をしていただくということを、どこに対してもお願いしていきたい」。
一方、成長戦略の一つに位置付ける港湾整備についての話題では、「お上がここだよということを決めるのではなくて、地域が様々な提案をされる中で、そしてオープンにそれを議論して決める透明感のあるプロセスをつくっていって、そして納得してそこに税金が使われる」、「われこそはと思うところはどんどん手を挙げていただいて、そして、その選択と集中の、集中にふさわしいような計画と実施をしていただきたい」とも語った。
日本の経済・社会の発展につながる公共事業を、各地域が積極的に提案してほしい――。前原国交相はこのようなメッセージを発している。地方分権を見据え、自治体の“提案力”を重視して予算配分するとも解釈できる。松沢知事と前原国交相との会談は一例であり、民主党政権下での新たな公共事業の進め方を予感させる。
もちろん提案の質は厳しく吟味される。リニア新線構想は、検討段階の域を出ていない。採算見込みはどうか、技術的な実現可能性はどうか。様々な角度からの検証のハードルを今後、越える必要がある。それに耐え得る提案ができれば、実現への道も開けるだろう。その過程で、土木・建築技術者をはじめとする専門家が果たす役割は大きいはずだ。
松沢知事が10月29日の会見で語ったリニア新線構想。以下では、会見での発言と報道陣との主なやり取りをお伝えする。