清水建設は、9月1日から「超環境型オフィスラボ」の公開を開始した。東京・日本橋に2011年完成予定の同社新社屋で採用する環境技術を、実際に組み込んだショールームである。ケンプラッツでは、関連リポートを全3回にわたり掲載、多くのアクセスをいただいた。

 このリポートは、技術面、省CO2の観点を中心にまとめたものだが、新社屋は「オフィスワーカーの執務環境」という視点からも注目すべき取り組みといえる。

新社屋の環境技術を組み込んだショールーム「超環境型オフィスラボ」は、机を向かい合わせに並べた「大部屋方式」のオフィスレイアウトだ。(写真:日経アーキテクチュア)
新社屋の環境技術を組み込んだショールーム「超環境型オフィスラボ」は、机を向かい合わせに並べた「大部屋方式」のオフィスレイアウトだ。(写真:日経アーキテクチュア)

 まず輻射(ふくしゃ)空調。天井パネルの裏に張り巡らせた配管に冷水を流して天井パネルそのものを冷やし、人体の熱が天井パネルへと熱が移るようにすることで、体感温度を下げるという仕組みだ。不快な気流や温度むらを抑えられること、空調機の機械音、送風の音も出ないことにより、従来より快適な執務環境を実現できる。

 清水建設によると「輻射空調の国内導入実績は、病院の個室などを中心に最近の約10年間で計2万m2ほど」だという。日本ではあまり普及していないシステムだが、新社屋では約3万m2のオフィススペースすべてに輻射空調を導入する。

 次にタスク・アンビエント照明。天井照明の照度を抑え、手元のスタンドで明るさを補うというものだ。手元照明の自由度やベースライトの照度設計などにもよるが、天井のベースライトの照度を落とすことでグレア(ぎらつき)を抑えることができ、快適な執務環境を実現できるとされている。新社屋ではこちらも全面採用予定だ。

 このように、清水建設の新社屋では「理論的に快適性の高い空調・照明環境」が出来上がることになる。ただし、従来のオフィスではなじみの薄い環境であるがゆえに、日本人オフィスワーカーが素直に受け入れるかというと、微妙な要素もありそうだ。

 例えば、夏場に暑い外から帰ってきたときに「冷たい風に当たらないと涼しくなった気がしない」という体感の持ち主は、私が周囲で聞いてみただけでも少なからずいるようだ。その点からすると、風を送らない輻射空調では物足りないと感じる人もいるだろう。

 照明も環境の変化による戸惑いが出てきそうだ。タスク・アンビエント照明は、現在主流のフロア全体を明るくするオフィス照明と比べると、どうしても「暗い感じ」がすることは否めない。よく言われる言説として「日本人は煌々と照られている明るい照明を好む」というものがあるが、だとすればなおさら、当初はタスク・アンビエント照明への違和感は大きいだろう。

 清水建設の新社屋のオフィスには約3000人の従業員が勤務する予定だ。入居予定部門は今のところ公表していないが、同社広報部によると、入居予定部門の現状のオフィスは、向かい合わせに机を並べ、間仕切りなどで仕切っていないという。また、入居予定部門のうち、現在タスク・アンビエント照明を採用している部門もないとのことだ。

 つまり、新社屋に入居するのは、研究部門などオフィス環境を特別に重視するような部門ではないと推測される。その人たちは、新しいオフィス環境に入居してどのような反応を示すのだろうか。また、入居1年後ではどうか。継続的な調査を実施すれば、日本のオフィス環境を考えていくうえでの貴重な資料となりそうだ。