JR東海が経済的に有利と提示した南アルプス貫通の直線ルートか、長野県が強く望む諏訪・伊那谷経由の迂回(うかい)ルートか――。

 リニア新幹線の経由地を巡る議論が核心に向かいつつある。想定3ルートの工事費や維持費を比較できるよう、JR東海が6月18日と7月21日に試算結果を明らかにした。示された費用などから様々なことが見えてきた。それらの解説に加え、運行ダイヤを予想してみた。

迂回ルート建設に6400億円の上積みが必要

 東京-名古屋間の工事費についてJR東海は、南アルプスルートが286kmで5兆1000億円、伊那谷ルートは346kmで5兆7400億円と試算した。伊那谷ルートの方が6400億円高い。工事費は建設費と車両費を合わせたものであり、中間駅の建設費は含んでいない。

 南アルプスルートは81%、伊那谷ルートは72%がトンネルになると想定している。山岳トンネルは飛騨トンネル、都市部のトンネルは首都高速道路中央環状線など、最近の事例を踏まえて試算した。

 リニア新幹線は、車両の両脇にガイドウエーと呼ぶプレキャストコンクリートの構造物を立て、その内側に設置したコイルに電気を流して走らせる。ガイドウエーは、車両を持ち上げる形で浮かせてまっすぐ前に進ませるなど、重要な部材だ。山梨実験線での技術開発では材料費を従来比で約1割低減しており、建設費の試算では、さらに量産効果などを見込んだ。

  南アルプスルート
(Cルート)
伊那谷ルート
(Bルート)
木曽谷ルート
(Aルート)
工事費 5兆1000億円 5兆7400億円 5兆6300億円
 うち建設 4兆8000億円 5兆3800億円 5兆2900億円
 うち車両 3000億円 3600億円 3400億円
路線長 286km 346km 334km
 うちトンネル 232km 248km 236km
 うち非トンネル 54km 98km 98km
最速所要時分 40分 47分 46分
リニア新幹線の想定3ルートの工事費 (資料:JR東海の発表を基にケンプラッツが作成)

 工事費とともに示された路線長は1km単位だ。細かく示されたということは、試算の前提となるルート案が確定していることを意味する。首都圏は品川、中京圏は名古屋の両駅を想定した。既に品川駅では、在来線と新幹線の間のスペースなどでボーリング調査が始まっている。

 ルートと密接に関係するのが中間駅の位置だ。長野県内の設置場所として、南アルプスルートは飯田・下伊那地区、伊那谷ルートは諏訪・上伊那地区を想定している。

 具体的なルートは明らかにしていない。特にトンネル以外の区間で用地を買収しにくくなる恐れがあるからだ。非トンネル区間の長さは、南アルプスルートが54km、伊那谷ルートでは98kmと公表した。非トンネル区間が多くなるのは、両ルートに共通の甲府盆地、伊那谷ルートの諏訪盆地、伊那谷(天竜川西側の場合)などだ。