「提案募集型ネーミングライツ」は、2008年10月に横浜市でスタートした命名権募集の仕組みだ。スポーツ施設、文化施設、集会施設、公園など市の公共施設のなかから、命名権(ネーミングライツ)を取得したい施設を選んで民間企業・団体が応募できる(市役所・区役所などの庁舎や学校などは対象外)。命名権についてだけでなく、その施設の魅力向上につながる提案の併記も求める。地方自治体としては全国初の試みだ。

 提案があった場合は、関係者や市民の意見を聞き、提案団体と市が協議するというプロセスを経たうえで命名権の契約を締結することがルール化されている。こうすることで市としての説明責任や透明性を担保する(図)。

横浜市の「提案募集型ネーミングライツ」の流れ(資料:横浜市)
横浜市の「提案募集型ネーミングライツ」の流れ(資料:横浜市)

 そして2009年7月15日、提案第1号の契約が締結された。同市戸塚区俣野町にある俣野公園野球場の命名権を、同じく俣野町にある横浜薬科大学が購入したのである。野球場には8月1日から「俣野公園・横浜薬大スタジアム」という名称が付けられた。命名権の対価は年額1000万円、契約期間は2009年8月1日から2019年7月31日までの10年間。命名権を購入した横浜薬大では、スタジアムの無償使用日(命名権購入団体が無償で施設を使用できる日。契約では年10日間)を利用したイベントの実施のほか、周辺で地域緑化活動や市民講座など、地元向けのイベントを開催する予定だ。

 提案募集型ネーミングライツは、民間企業や団体から「この施設の命名権を購入し、併せて施設をこう使って地域に貢献したい」という提案を受け入れるという点で、従来の命名権募集より一歩踏み込んだ官民協働の仕組みといえる。また、この仕組みは「プロスポーツ団体が本拠地を置く横浜のような大都市だから成立する」というわけでもなさそうだ。実際、俣野公園・横浜薬大スタジアムでは高校野球の予選は行われるが、全国放送されるようなプロスポーツ競技は行われていない。こうした“地元仕様”の施設は、各地にあるはずだ。

 実は、この制度については08年10月のスタート時にケンプラッツで既に報じている(当該記事)。ただ、いくら優れた制度でも結果が出なくては他の自治体への影響力は弱い。実際、追随する自治体はまだ見当たらない。今回第1号の契約が決まったことで、各地に“横浜方式”の提案募集型ネーミングライツが広まるかもしれない。

 スタジアムや音楽ホールから、道路、トイレまで、自治体施設の命名権販売はすっかり定着した。財政が厳しいなかで施設整備の資金を浮かせたい地方自治体と、イメージアップを図りたい企業との思惑が一致すれば、双方にメリットがある。税金が節約できるのだから市民にとっても悪い話ではない。

 一方、命名権を募集しても買い手がつかないケースも増えている。景気が回復しないため、命名権の話題に新味がなくなってきたため、対象施設に魅力がないため……理由はいろいろ考えられるが、いずれにせよホイホイと買い手がつく情勢ではない。そうした背景もあって登場したのが横浜市の「提案募集型ネーミングライツ」だといえるだろう。

 もちろん、夢のような話がそうそう転がっているわけではない。横浜市の提案募集型ネーミングライツしても、問い合わせこそ数件あったものの、第1回目の募集期間(08年10月20日~30日)に来た提案は横浜薬科大学の1件だけだったという。

 だとしても、マーケティング活動に不慣れな自治体が施設を選定して命名権の売却先を募集するよりも、広く民間からの提案を受け入れる提案募集型ネーミングライツの方が、新たな施設活用の可能性が見込めるのではないだろうか。対象施設を特定していない分、自治体側からの“営業”もかけやすいといえる。

 なお、横浜市では第2回目となる「提案募集型ネーミングライツ」の応募を受付中である(8月10日から9月10日まで)。