戸建て住宅の構造材を加工するプレカット工場にバランスの悪い「危ない間取り」の設計図が持ち込まれるケースが目立ち、多くはそのまま建設されている――。そんな話を耳にした。警鐘を鳴らすのは職業能力開発総合大学校建築システム工学科の松留慎一郎教授だ。

 具体的には1階と2階で柱の位置や壁の位置が半分以上、合っていない住宅だ。設計の基本を理解した人にとってはにわかには信じられないようなことだが、プレカット工場の担当者へのヒアリング結果によると「レアケースではなく、むしろこちらが主流になってしまっているのが実態という印象だ」(松留教授)。

 1階と2階の平面図を重ね合わせると、2階の柱や壁の下にそれを支える柱や壁が存在しない。1階と2階の柱や壁の位置が合致している割合を「直下率」と言うが、柱の直下率が50%を下回ると、横架材がたわんで2階の床に不陸などが発生する事故の発生率が3倍以上に高まるという調査結果がある。さらに地震に耐えるための性能が落ちる可能性もあるという。

 「木造2階建て程度の住宅は壁量計算で構造の検討を行うことが多いが、いくら壁量計算で偏芯率や壁量を確認しても、前提条件が崩れた間取りでは弱点が生じる危険もある」と松留教授は言う。せっかく配置した耐震壁が有効に作用せず、地震時に大きなダメージを受ける可能性がある。

 なぜ、設計の基本とでもいうべきことが守られず、バランスの悪い危ない間取りが量産されるのか? 松留教授は「建物全体としての構造を検討せず、営業マンなどが建て主との打ち合わせで1階と2階の間取りをそれぞれ別々に決めて、そのまま突っ走ってしまうケースが多いのではないか」と推測する。「在来木造は自由な間取りが可能」というイメージもこういった傾向に拍車をかけているようだ。

 住宅の長寿命化が脚光を浴びている。いわゆる200年住宅を認定する長期優良住宅法も施行された。しかしその足元で、不陸などの事故の発生率が高く、耐震性能の面でも問題のある住宅が量産されている可能性がある。

 松留教授は、間取りを検討する段階で柱の位置を少し変えたり、壁の位置に少し配慮するだけで大幅に改善できるケースが多いと強調する。ラフプランの段階で1階と2階の柱や壁の重なりをチェックすることを提唱している。