V字谷の谷底に軌道が露出するのは危険

 釜沢も上青木も深いV字谷にあります。釜沢では谷底の標高900mに対し両岸は標高1650m付近まで急斜面です。上青木の桃の平堰堤付近の標高は850mで、西側は伊那山地の1700mの稜線まで急斜面、東側の赤石山脈側はかんらん岩・蛇紋岩の地すべり地帯です。

 このような場所で軌道が谷底に露出することはたいへん危険です。V字谷そのものが赤石山地の高速隆起に伴って弱線部が下刻されて形成されてきたものであり、両岸の急斜面から谷底へ向かっての岩盤崩落は宿命とも言えます。また、赤石山地全域は東海地震の地震防災対策強化地域に含まれており、東海地震の揺れに襲われたときには、山地内の各所で崩落や地すべりが発生すると予想されます。

 ロックシェッド程度の構造物で崩落岩塊から軌道を守りきれるとは思えません。法面保護をすることになれば、標高差750m以上の谷壁上端までの工事が必要になります。しかし、『中央新幹線調査報告書』では、V字谷の谷壁斜面の崩落や、それに対するトンネル出入口の保護については全く触れられていません。

 安全と環境の両面から、本線用トンネルは、山地内のV字谷の谷底に露出させないことが必要と思われます。

掘削岩ズリの置き場の確保が先決

 赤石山地はこのように深いV字谷が発達し、谷に向いた斜面が地すべりなどによりやや緩傾斜になった場所に集落が点在しています。このような地形で、トンネル掘削で生じる岩ズリを置く場所はありません。

 谷を埋めるようなことをすれば、土石流の材料を溜め込むようなもので、災害の原因になります。また河川環境の破壊になります。

 しかし、『中央新幹線調査報告書』では、ズリの処理については触れられていません。

 ズリの受け入れ先として多数の合意が得られるとすれば、駅予定地の造成に用いる場合でしょう。そのためには伊那谷の駅の位置が決まっており、そこにズリを搬出する、伊那山地を貫くトンネルが掘られていなければなりません。

 これは荒唐無稽な話ではなく、高知県の鳥形山鉱山では積み出し港まで20kmのトンネルを掘りベルトコンベヤーで石灰石を搬出していますし、中部国際空港の造成では埋め立て用の砕石を50km遠方から鉄道と船で運んでいます。

 そもそも「リニア線は東海道新幹線のバイパスだから勝手に通す。駅が欲しいなら地元負担で造れ」というのは、横暴な話だと思います。地元にとっては近傍に駅ができるのでなければ何のメリットもないのであり、ただ通過するだけならば建設を受け入れる理由は無いのです。

 したがって南アルプス貫通ルートは、安全と環境と住民の合意を考慮すれば、次の条件が必要と思います。

(1)小渋断層谷と、中央構造線の断層谷を通過する地点で、本線用トンネルが地表に露出しない
(2)伊那谷の駅建設予定地と、そこに至るルートが確定している
(3)掘削岩ズリを山中に放置せず、搬出先と搬出方法が準備されている

 6月18日に公表されたCルートの工費費の見積もりにこれらの費用が含まれているのかどうか、明らかにする必要があります。

 なお、諏訪・伊那谷を通るBルートは山梨~諏訪湖では活断層沿いになることは避けられず、伊那谷でも天竜川の西側を通るならば活断層沿いを通ることになります。