赤石山地の内部を通る構造線:隆起と侵食でV字谷を形成

 赤石山地の内部には何本もの構造線が通っています。構造線とは、地質帯の境界になっている大規模な断層のことです。中央構造線・戸台(みかぶ)構造線・仏像構造線・笹山構造線は、関東から九州・沖縄へ続く長大な構造線です。糸魚川-静岡構造線は東西に続く地質構造を南北方向に切っている構造線です。

 また大鹿村大河原から赤石岳の方向に、小渋断層が中央構造線から分岐しています。赤石山地では、南方からフィリピン海プレートに乗って北上する伊豆-小笠原列島の衝突により、四国から続いてきた東西方向の地質構造が南北方向に折れ曲がっています。折れ曲がるだけでなく、小渋断層の南西側では日本海側に傾き下がっている地層が、北東側では立ち上がって90度回転し上下が逆転しています。小渋断層は、この「ねじ曲がり」の折れ目に生じた断層です。

 これらの断層は岩盤の弱線部になっているため、赤石山地の激しい隆起にともない河川による強い下方侵食を受けて深い谷が刻まれてきました。とりわけ中央構造線と小渋断層沿いには、落差600~1000mに達する一直線のV字谷が形成されています。

 JR東海がCルートとして想定していると思われる早川町新倉は糸魚川-静岡構造線の断層谷、大鹿村釜沢は小渋断層の断層谷に位置しています。

(資料:産業技術総合研究所が作成した地質図に河本和朗が加筆。地質図の出典:産業技術総合研究所地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図データベース関東地域南部連続ズーム版2005年1月12日版および東海・近畿地域連続ズーム版2005年2月1日版。承認番号:第63500-A-20090707-011号)
(資料:産業技術総合研究所が作成した地質図に河本和朗が加筆。地質図の出典:産業技術総合研究所地質調査総合センター20万分の1日本シームレス地質図データベース関東地域南部連続ズーム版2005年1月12日版および東海・近畿地域連続ズーム版2005年2月1日版。承認番号:第63500-A-20090707-011号)

 図2は地質図にCルートの想定ルートを重ねたものです。JR東海が大鹿村釜沢で東方の主稜線方向へ水平ボーリング(1kmで中断)を行っていたこと以外に全く情報がありませんが、釜沢と岐阜県東濃地方を直線で結ぶと飯田市川路付近を通るので、取りあえずその線で結んであります。

 Cルートはどこかで中央構造線の断層谷を横切ることになりますが、この図では青木川の谷を上青木で横断しています。小渋断層の谷と青木谷の間には標高1707mの青田山、青木谷と伊那谷の間には標高1889mの鬼面山があり、これらの下もトンネルでくぐることになります。

 中央構造線の西側の伊那山地は領家変成帯に属し、大部分を占めるピンク色に塗られた部分は花こう岩です。中央構造線沿いの幅1000mの部分は、中生代白亜紀に高温の地下深部にあったとき初期の中央構造線のずれを受け、壊れることなく押し延ばされたマイロナイトになっています。マイロナイト化した花こう岩は石英が細粒緻密になっているため深層風化(マサ化)せず、固いため急傾斜の岩壁を造ります。しかし中央構造線の近傍では亀裂が発達し、持ちこたえられなくなると角礫(れき)状になって一気に崩落します。