赤石山地の周囲を囲む活断層:北東側には2300mの高低差

 赤石山地の東側では、赤石山脈北部や巨摩-身延山地が甲府盆地に押しかぶさるように上昇しています。そのため長野県富士見町~山梨県身延町には甲府盆地側にのし上がる逆断層が発達しています。逆断層はオーバーハングになるため断層面は崩れ落ちてしまいますが、甲斐駒ケ岳~鳳凰三山と釜無川河床との2300mに達する高低差が激しい上昇を示しています。巨摩山地の基部には、山地と平野の境界をなすがけ地形として、下円井(しもつぶらい)断層や市之瀬断層などの活断層が確認できます。

 赤石山地の北側の諏訪湖~小淵沢付近では、糸魚川-静岡構造線が左横ずれ再活動をしています。断層の両側の地形の食い違いから、1000年平均で5~10mという日本列島の活断層では最大級のずれの速さが推定されています。ただしこれは長期間の平均値で、実際には数百年~数千年に1回、地震を伴って一気に動きます。この横ずれにより、糸魚川-静岡構造線活断層系に諏訪盆地で直交する中央構造線は、茅野~岡谷間で12km食い違っています。諏訪盆地はこの横ずれ断層運動により落ち込んだ開裂盆地で、周囲の山地と同じ岩盤は諏訪湖の湖面の下500mにあります。ただし、諏訪湖の水深は流れ込んだ堆積(たいせき)物で埋まっているため7mしかありません。

 赤石山地の西側では、木曽山脈(中央アルプス)側が赤石山地側に押しかぶさるように上昇しています。天竜川の西側には伊那谷断層帯の活断層が何列も走っています。

 地下で地震を発生させた震源断層の上端が地表まで達し、地表にずれが現れたものを地表地震断層と言います。活断層とは、地表地震断層が繰り返し出現することにより、地形や地表付近の若い堆積層に食い違いが残ったもので、再び地震を伴って同じようなずれが出現すると予想されます。

 活断層にかかわる問題としては、地下の震源断層が再びずれ動く時に発生する強い揺れ(地震動)と地表面の食い違い(断層変位)、地震発生時だけではなく常に問題となる断層破砕帯の脆弱(ぜいじゃく)さや湧水が挙げられます。しかし、独立行政法人・鉄道建設・運輸施設整備支援機構とJR東海が2008年10月22日付で作成した『中央新幹線調査報告書』(地形・地質報告書)は、断層破砕帯に言及しているだけで、地震動と断層変位については全く述べていません。

 断層変位による被害としては、1930年の北伊豆地震発生時の丹那断層のずれによる、当時建設中だった東海道本線丹那トンネルに生じた2.7mの食い違いがよく知られています。しかし1995年の兵庫県南部地震では、地下の震源断層のずれは神戸側では地表に達しなかったので、六甲山地の活断層は地表では動いておらず、山陽新幹線六甲トンネルが六甲山地の活断層を横断している部分でも断層変位は生じなかったと思われます。