「最近の便器は構造が複雑で、まるで電化製品だよ。説明書を見ながらじゃないと、施工できなくてねぇ…」。老眼鏡をかけ直しながら、50歳半ばの水道工事専門の彼は苦笑いした。

 以前立ち会った、タンクレス便器のリフォーム施工で実際にあった一コマだ。彼は狭いトイレ空間で、説明書をじっくりと読みながら、部品や位置を確認して取り付けていた。時には、別の説明書を探すためにうろうろ。2~3時間で終了する予定だった取り付け工事は、結局6時間以上かかった。

 年配の施工者だからこうなったわけではない。日経ホームビルダーの連載コラム「とことん実証!建材・設備」で、INAX、TOTO、パナソニック電工のタンクレス便器を比較するために実施した実験の場でも、同じような施工風景を目にした。

説明書をよく読みながら、タンクレス便器を設置する水道工事会社の施工担当者。15年のベテランでも、説明書は欠かせない(写真:吉田竜司)

 実験で施工を担当したのは、30歳代の二人。15年というベテランで、作業の息もぴったりだ。戸建て住宅の2階のトイレに取り付けるといった実験条件だったが、1階に置いてあった便器をきびきびと運び上げ、作業を進めた。だがやはり、おもむろに説明書を取り出して読み始める。作業につまずいては読み、迷うと説明書とにらめっこ。取り付け方法がわからず、かなりの時間を費やしたこともあった。詳しくは下記の表にまとめた記事で紹介している。


 ふと気がつくと、住宅設備は機能や構造が複雑になっている。冒頭の水道工事会社の人がつぶやいていたように、まるで、日本が誇る多機能な電化製品のようだ。

 たとえば、キッチンにはIHクッキングヒーターや、食器洗い乾燥機、浄水器、電動昇降式のつり戸棚と、多種多様な機能を組み込むことができる。システムバスのなかには、風呂場でテレビを見られるものや、カビを防止するために銀イオン水を散布する機能を搭載したものまである。玄関のインターフォンは、映像で来客の顔を確認するタイプを取り付けることはもはや珍しくなく、建て主が在宅中は来客の訪問をテレビに通知したり、留守のときは携帯電話に伝達したりするものもある。火災警報器と連動して、火災を家の外に知らせるインターフォンもある。

 住宅設備の多機能化は、建て主にとっては便利でありがたいが、施工者にとっては、難解で手間のかかるものになりかねない。どの製品にどんな機能があって、機能を連携できる製品はどれとどれなのか…。分厚い説明書を片手に持ちながら、建て主と設備の打ち合わせをする――。こんな風景は、もはや夢物語ではないのかもしれない。