数年前から築30年を経た戸建て木造住宅に住んでいる。ほぼ土地代だけで購入した。仲介した不動産会社によると「建物の不動産価値は、既になくなっている」とのこと。2階にリビングダイニングとキッチン、寝室といった生活空間を配した間取りは、なかなか快適だ。新築当時は、すごく斬新な建物だっただろう。「得した」と思う一方で、「売り主は不満だろうな」と感じた。

 中古住宅市場での建物自体の価値は、築20年で新築時の1割、築30年ならほぼゼロになる。つまり、一般的な住宅は、どんなにがんばって建てても不動産としての価値は30年でなくなってしまう。このルールの下では、先の住宅の建て主は建物の価値がゼロと判断された。

 6月4日に施行となる長期優良住宅普及促進法は、住宅の資産価値を高めて、消費型の社会からストック型の社会へ転換を目指すものだ。しかし、建物の査定ルールが現状のままでは、中古市場で評価が得られない。仮に、住宅の寿命が200年になったとしても、築30年を過ぎると中古市場では価値がなくなってしまうなら、金を注ぎ込むのは無駄だと、多くの建て主は判断するだろう。とすると、長期優良住宅の普及に黄信号が灯る。

 長期優良住宅普及促進法では、劣化対策、耐震性、維持管理、高齢者対策、省エネ対策、可変対応など、建物の仕様を評価するルールや、維持管理の履歴管理システムなども導入する。いわば、住宅業界から不動産業界に向けて「査定ルール(案)」を投げかけたといえる。普及促進法が定着する鍵を握るのは、案外、不動産業界になるかもしれない。

 一方、国交省が2008年度から実施している長期優良住宅の先導的モデル事業では、積水ハウスや旭化成ホームズといった大手住宅メーカーが、買い取り保証を含めた中古住宅の流通促進策を提案している。いずれも、独自の査定ルールを設けて買い取り価格を下支えすることで、中古流通を促進しようという試みだ。同時に、買い取り価格を保証することで「価値の目減りが少ない建物」として、自社住宅のブランドイメージを守る狙いもある。

 長期優良住宅が普及するか否かも、結局、同じことだ。長寿命は価値があるという社会的合意があれば、長期優良住宅の値段が高くても買い手がつく。そうすれば、資産価値を高めるために長期優良住宅の仕様を採用する人も増えるはずだ。

 いっそ、国交省が長期優良住宅を相場の何割増しかで買い取ってはどうか。国交省による中古住宅の買い取り保証だ。傷んだ部分を補修し、ニーズに合うようにリフォームした上で、中古市場に投入する。それで利益が上がるようになれば、長期優良住宅が社会に定着したことになる。

 こんな“暴論”も含めて、中古住宅の不動産関係者を巻き込んだ議論が高まることを期待したい。