「総合評価落札方式の技術提案が通り一遍の内容になりがちだ」といった悩みを、建設会社の技術者から聞くことがある。各社の入札額が狭い範囲に集中するなか、どうすれば抜きん出た提案を示すことができるのかに苦労している会社は多い。

 私たちは子どものころから、親や先生から出された問題を解く訓練をして育ってきた。受験勉強は、その最たるものといえる。最近、テレビでクイズ番組が多いのは、そうした訓練を受けてきた私たちのなかに、問題を解くことである種の満足感を得ようと考える人が多いからなのだろう。こうしたクイズばやりの現状に、警鐘を鳴らす人もいる。

 「自分で問題をつくり、それを解く訓練が、今の私たちには必要だ」。先日、脳教育の専門家がこのように話しているのを耳にした。彼によれば、言われたことに対応するばかりで、情報に受け身的に接し続けていると、価値判断がまひしたり、分析力が衰えたりするのだ。情報に対して能動的な面がなければ、通り一遍の内容から抜け出すのは難しいというわけだ。

 提案に先立ち、自分たちが問題を設定してそれを解くプロセスを実践している建設会社もある。そこでは、設計や施工の計画について打ち合わせる際、「なぜその方法なのか」、「ほかに方法がないのか」、「どのように考えてその方法に至ったのか」といったことを念頭に置いて議論を進めている。「今までそうしてきたから」との考え方はご法度だという。実績をもとに判断したり前例に倣ったりすることには良い点もある。しかしこの建設会社の技術者たちは、環境や条件がめまぐるしく変わるなかで、それをそのままうのみにしてはいけないというところから問題提起し、ユニークな提案に結び付けようとしている。

 「発注者が本当に気になっているところや、悩んでいるところに応えてあげなさい」。ある建設会社の幹部は、技術者に対してこのように指示しているという。例えば、トンネル工事で開削区間の規模をできるだけ小さくといった課題があったとしよう。このとき、技術者たちはまず、発注者がなぜ開削区間を抑えたいのかを考える。そして、排出土砂の処分や埋め戻し方法など、開削で生じる環境面や工程面の影響を極力抑えた提案をする。こうした手順によって議論の方向性がみえてくる。

 与えられた問題をただ解くのではなく、出題者の気持ちで問題を作ってみる。このひと手間が、よりよい提案に昇華させるきっかけになる。