先日、ある住宅会社の記者発表に参加して、はっとさせられた。2008年の業績報告と新商品の発表を兼ねた内容で、まず、直近の業績発表があった。同業他社と同様に、前年比で1割以上、業績が落ち込んでいた。

 <やはり景気が悪くなっている影響なのだろうな>と先読みしながら耳を傾けていたら、この会社の経営者は想像と違うことを言った。「業績が落ち込んだ原因は景気ではありません。景気後退に連動して、生命線である種まきを怠ったからです」――。

 わが社は特徴のある住宅をつくっており、それをきちんと顧客に伝えられれば景気はさほど関係ない。その証拠に自社の展示場への来場者数と受注棟数は、景気の波に関係なく、きれいに比例している。それなのに固定費削減の一環として、展示場来場者を確保するための費用や手間を削ってしまった――。そのことを「種まきを怠った」という言葉で表現したのだ。昨年秋にこれに気づいて広宣販促活動へ力を入れ直したところ、効果は現れつつあるという。単月ベースでは、この春の受注はプラス基調に転じた。

 「われわれの仕事は魚の群れを探し出して捕獲するような狩猟型ではない。種をまいて、しっかり育てて、その実りを収穫として得る農耕型。業績が厳しいからといって種まきを怠り、無理な収穫をすれば大きなツケが回ってくる。そのことに早めに気づいてよかった」。記者発表後の懇談で、この経営者はこう語ってくれた。

 住宅産業はストック時代に向かう。家づくりの仕事はますます農耕型の性格が強くなる。種をまき、大事に手入れをしなければ永続的な収穫はない。当たり前のことだけれどなかなか貫けないのは、種まきの効果が現れるまでには総じて時間がかかるからだろう。目の前にある実りは、ずっと前に種をまき、それを大事に育ててきた成果かもしれない。厳しい局面になるほど、思い出したほうがよいことだと感じた。