一度、建築基準法第43条第1項ただし書きの特例許可を得ているのだから、再度、同じ許可を得ることは難しくないだろう――。「NM.house」(東京都世田谷区)の建て主も、設計者であるアトリエA5建築設計事務所(以下、アトリエA5)も、こう考えていた。しかし、意外にも特定行政庁である世田谷区は、簡単には特例許可を下ろそうとしなかった。敷地の前面通路が4m道路に接する部分の、「隅切りの辺が短い」と指摘してきたのだ(図を参照)。アトリエA5代表の清水貞博氏は、「隅切りの辺の長さが問題になるとは思ってもいなかった」と振り返る。


NM.houseの敷地のイメージ図

隅切りの辺が2~3cm足りない

 NM.houseは、既存の木造住宅を解体し、約136m2の敷地に建設したRC造、地下1階・地上2階建ての住宅だ。敷地は私道で4m道路に接している、通常は建築の認められない不接道敷地だった。既存の木造住宅は、建築基準法第43条第1項ただし書きの特例許可(以下、特例許可)を得て建築確認を取得していた(注1)。これは、不接道敷地でも一定の要件を満たしており、建築審査会の同意と特定行政庁の許可を得られれば、特例として建築を認める制度だ。

 世田谷区は、特例許可の審査手続きを簡略化するために「建築基準法第43条第1項ただし書に関する一括許可基準」を設けている。これを適用するために、敷地の前面通路が位置指定道路の要件を満たすことを求めた。ところが、NM.houseの敷地の前面通路が接道する部分の隅切りが、位置指定道路の要件である辺の長さ「2m」に、2~3cm足りなかったのだ(注2)。

以前は隅切りがなくても特例許可を得られた

 世田谷区都市整備部建築調整課の峯田政和氏は、「区の建築審査会がここ2~3年、より厳しい姿勢で審査し始めた結果だ」と打ち明ける。実は、約10年前に既存の木造住宅を建てた時は、隅切りがなくても特例許可を取得できた。隅切りはその後、道路に面している住宅の建て主が、建ぺい率の緩和を受けられる「角地緩和」のために設けたものだった。つまり、接道条件は以前より改善されていたにもかかわらず、世田谷区がより厳しい姿勢を取ったために、特例許可の「一括基準」を適用されなくなったのだ。

 アトリエA5は、隅切りの底辺が2m以上あり、東京都建築安全条例が求める位置指定道路の要件を満たしていると主張するなど、粘り強く交渉した。最終的には、審査手続きを簡略化できる「一括基準」の適用ではなく、時間はかかるが世田谷区に個別の審査を受けることになった。その結果、「交通上、安全上、防火上および衛生上支障がない」と判断され、特例許可を受けて、2007年11月の着工にこぎ着けた。

 審査の厳格化は、こんなところでも進んでいる。以前は得られた許可を、いま同じ条件で得られるとは限らない。設計者は、そんな場合の対応も考える必要がある――。世田谷区の小さな住宅が建築確認を得る経緯を通して、そんなことを考えた。

(注1)建築基準法第43条   建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第44条第1項を除き、以下同じ)に2m以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上および衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。(以下省略)

(注2)建築基準法施行令 第144条の4   法第42条第1項第5号 の規定により政令で定める基準は、次の各号に掲げるものとする。 二  道が同一平面で交差し、もしくは接続し、または屈曲する箇所(交差、接続または屈曲により生ずる内角が120度以上の場合を除く)は、角地の隅角をはさむ辺の長さ2mの2等辺3角形の部分を道に含むすみ切りを設けたものであること。ただし、特定行政庁が周囲の状況によりやむを得ないと認め、またはその必要がないと認めた場合においては、この限りでない。