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長野県:駅の議論の前に立ちはだかるルートの課題

 ルートが決まっていないがゆえに駅の議論に進めない――。長野県は悩ましい課題を抱えている。

 長野にとっては、駅よりもまずルートがどうなるのかが課題なのだ。示されている3つのルートのうち、諏訪と伊那谷を経由するBルートを県の意見としてとりまとめ、長年、運動を展開してきた。ところが、JR東海が07年12月に発表した事業計画は、南アルプスを直線的に貫通するCルートを前提とするものだった。対応に追われ、駅誘致では他県より出遅れてしまっている。

 もちろん、駅誘致の意思はある。Bルート上にある諏訪(諏訪など6市町村)、上伊那(伊那など8市町村)、飯田・下伊那(飯田など15市町村)の3地区の期成同盟会が、それぞれ地区内への駅設置を望んでいる。しかし、ルートが決着していないことから、正式な要望として県に伝えるには至っていない。県も駅に関して具体的な表明をしていない。

長野の誘致状況
長野の誘致状況。諏訪、上伊那、飯田・下伊那の3地区が駅の設置を望んでいるものの、県に対して正式な要望を出すに至っていない。駅よりもまずルートの決着が課題なのだ (地図提供:マピオン (c)Yahoo Japan)

 3地区のうち飯田・下伊那は、BルートでもCルートでも経由地になる。それでも飯田・下伊那の住民にとっては、どのルートに決まるかが気になるところ。なぜなら、駅が県内に1つしか設けられない場合は、Bルートだと諏訪や上伊那に駅を“取られる”可能性が高いからだ。これに関連して、飯田・下伊那を地盤とする南信州新聞が08年12月、地区住民を対象に電話調査を実施している。その報道によると、南アルプス貫通ルートの支持が57.6%だったのに対して、伊那谷経由は32.6%にとどまった。08年11月には飯田市選出の県議が、議会でCルートを容認する発言を行い、後日、陳謝するという“事件”も起きた。飯田市などの自治体は今のところ沈黙を保ったままだ。

Cルート・飯田市付近で決着するのか

 JR東海は長野県との話し合いの場で、各ルートについて事業費などを示し、民間企業の体力ではCルートしか造れないと説明するだろう。BルートはCルートに比べて約40km(14%)長いとみられ、単純計算でも事業費が7000億円余計にかかる。維持費なども将来に渡って増加し、運賃・料金や株式配当などに影響する。

 Bルートにすると、並走するJR中央本線の収支悪化が予想され、仮に諏訪・伊那・飯田の3駅を設けるともなれば(ありえないだろうが)、その問題がJR飯田線にまで及ぶ。大地震との関係が指摘されている伊那谷断層帯や糸魚川静岡構造線と平行して長距離を走ることになる点も、建設可能とはいえ、運行上は気になるところだ。

 東京-名古屋間の事業費を抑えるほど、大阪までの全通の道のりが縮まる。リニア新幹線が新大阪まで完成すると東海道新幹線のダイヤに余裕ができる。すると、北陸新幹線が米原以西に乗り入れることも可能になる。北陸新幹線は敦賀以西のルートがいまだ確定していない。東海道新幹線を活用できるなら建設費が圧縮できる。長野での決着が西方まで及ぶ。

 結局のところ、Cルートでの建設と飯田市付近への駅設置で決着するのではないだろうか。

 ちなみに、Bルートで建設した場合、諏訪に大きなカーブが生じるものの、減速を強いられることはない。山梨リニア実験線は最小曲線半径を8000m、最急勾配を40‰(4.0%)として建設している。国交省鉄道局によると、この曲線と勾配でも営業運転時の目標である時速500kmを出せるという。諏訪を半径8000mのカーブで曲がって、仮にCルートより約40km長くなった場合、所要時間の増加は約5分と算出できる。

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