2025年の開業を目標に計画が進められているリニア新幹線。国土交通省は08年末、東海旅客鉄道(JR東海)と鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)の2者に、輸送力など残り4項目の調査を実施するよう指示した。これをきっかけに、懸案となっていたルートと中間駅について、具体的な検討が始まっている。現段階で経由地域からどのような要望が出されているのか、また、それらに実現性はあるのか、まとめた。
調査の前提として地域との調整を求める
国交省は2者に対し、調査の前提として、ルートや中間駅に関して地域と調整するよう求めた。ただし、調整を十分に行わせることが必要との考えから、報告書の提出時期は示さなかった。
背景には、ルートや駅を巡って地域の誘致活動が過熱しつつある現状がある。事業主体はJR東海であるにしても、環境アセスメントや土地収用では自治体の協力が不可欠になる。JR東海と自治体の関係が硬直化するのを未然に防ぐため、国交省が異例ともいえる注文をつけた。
中間駅の誘致の意思を示しているのは、2月上旬時点で4県の9地域。08年以来、自治体を中心とした協議会などが、続々と発足している。これに対しJR東海は、リニア新幹線の高速性を生かすために中間駅は極力、設けない考えを示している。リニア新幹線の品川-名古屋は、無停車だと40分なのが1駅停車するごとに5分程度遅くなるからだ。ただしJR東海の首脳は、1県当たり1駅を設置する考えに対しては、常識的だとの認識を示している。1県1駅を落としどころとして話が進められる。
東海道新幹線では、速達列車の「のぞみ号」が途中駅で各駅停車の「こだま号」を追い抜く。リニア新幹線でも同様の運行ができるように、中間駅には通過専用線が設けられる。山梨リニア実験線では列車の進路を振り分ける分岐装置(ポイント)の試験を重ねている。
中間駅には、悪天候などで乱れたダイヤを整理する機能がある。例えば、東海道新幹線の岐阜羽島駅と米原駅は、関ケ原の降雪に備えているという面がある。運行する側のためにもなる。
県 | 駅設置想定地 | 推進団体 | 構成市町村 |
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神奈川 | 相模原市域 | 相模原市 | |
山梨 | 郡内 | リニア中央新幹線富士北麓・東部建設促進協議会 | 都留、富士吉田、大月など12市町村 |
峡東 | 峡東圏域リニア中央新幹線駅誘致推進協議会 | 笛吹など3市 | |
峡中 | リニア中央新幹線甲府圏域建設促進協議会 | 甲府など4市町 | |
峡南 | リニア中央新幹線建設・新山梨駅誘致促進峡南地域協議会 | 鰍沢など6町 | |
長野 | 諏訪 | 中央リニアエクスプレス建設促進諏訪地区期成同盟会 | 諏訪、茅野、岡谷など6市町村 |
上伊那 | 中央リニアエクスプレス建設促進上伊那地区期成同盟会 | 伊那、駒ケ根など8市町村 | |
飯田・下伊那 | 中央リニアエクスプレス建設促進飯伊地区期成同盟会 | 飯田など15市町村 | |
岐阜 | 東濃 | 東濃5市(多治見、土岐、瑞浪、恵那、中津川) | |
中津川市 |
建設費の負担が大きな課題
事業主体と地域の関係を説明する際に、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)がよく引き合いに出される。全幹法の第1条には地域振興が明記されており、地域が駅の設置を求める根拠にもなっている。
ただし全幹法は第13条で、路線の建設費の一部を地域が負担することも定めている。整備新幹線の建設促進を目的に、1997年の改正で両項が盛り込まれた。国の予算が十分でないことから、建設を望む地域に費用負担を求めるスキームを確立し、法に反映させた。
リニア新幹線の場合は、地域よりもむしろJR東海の方が建設意欲は強い。事業費のすべてもしくは大部分をJR東海が負担するとなれば、全幹法の想定とはやや状況が異なってくる。
そうした中で、駅の設置費用を誰が負担するのかという課題がある。周辺整備と合わせ200億~300億円が必要と言われている。JR東海は受益者となる地域の負担が前提と考えている。発表済みの想定事業費5兆1000億円には、中間駅に関する費用を含めていない。東海道新幹線のバイパスと位置付け、大都市間の輸送を主目的にしているからだ。
どの自治体もリニア新幹線の早期開通を望んでいる。ルートの課題を抱える長野県以外は、早い段階で駅候補地を絞り込んでくる。路線を曲げたりコストのかさむ工事を求めたりしない限り、設置場所に関する地域の意向は尊重されるだろう。費用負担については、プロジェクトに対する地域の貢献度が勘案されながら、協議が進むと思われる。
以下、地域の要望がかなうか否か、県ごとに実現性を検証する。