「“なんちゃって天然木”に一言」と題したコラムに対し、ケンプラッツの読者から多くのコメントが寄せられた。その数は1月19日時点で74件。設計者、施工者、建材・設備メーカー、建て主など、さまざまな立場の人がそれぞれの視点で意見を投稿している。

 ある程度の数のコメントは寄せられると想定していたが、ここまで議論が繰り広がるとは考えていなかった。うれしい誤算だ。読者の立場が異なれば、製品に対する評価も違ってくる。いくつもの興味深いコメントからは、読者の真摯な考え方がひしひしと伝わってきた。正直言って、この熱い議論を終わらせるのはもったいない。もっと議論を深めたい。

 複数の人がコメントにも書いているが、建材は、“なんちゃって天然木”に限らず適材適所が重要だと思う。設計者や施工者は、法適合、デザイン、施工性、コスト、納まり、メンテナンス――などを総合的に判断し、あまたある選択肢のなかから苦労して最適な建材を選び出している。

 ただ、建材を採用する最終的な決定権は建て主が持っている。そのため設計者や施工者には、建て主の判断材料になる、プロとしての見解を示すことが求められる。後になって「勝手に決められた」「だまされた」「聞いていない」とクレームが生じないように、建て主が十分に理解するまで、各建材のメリット・デメリットを説明しなくてはならない。

 しかし、きちんと説明したと思ってもクレームはなくならないのが実情だ。「天然木に色むらがあるとクレームがきた」というコメントもあったが、そこには設計者や施工者の説明不足だけでなく、建て主側の認識・知識不足があるかもしれない。そうした齟齬(そご)をなくすためにも、ここで交わされているようなさまざまな立場の人による議論は欠かせない。

 前回のコラムで、「せめて手の触れる場所ぐらい、本物の木を使いたいと思う」と書いたのは、以前、住んでいた家で感じたことだ。その家の室内ドアは、木質ボードの基材に木目調の樹脂シートをラッピングした製品だった。ドア枠や窓枠なども同じだ。

 日常的に手や物が触れる場所なので傷も付きやすい。安価な製品だったせいか、傷が付くとシートが破れ、とてもみすぼらしい印象になった。部分補修もままならず、シート全体を張り替えるにはコスト・手間ともにかかり、面倒なのでそのままにしていた。

 冬場、ドアに触るとひんやりして、木ならではの温かみが感じられない点も気になった。そうした経験から、条件が合うならば、自分が住む家の手が触れる部分ぐらいは、古びても愛着がわく建材をできるだけ使いたいと、建て主の立場で考えるようになった。

 前回のコラムでは、あまりにリアルな天然木を再現したアルミ製玄関ドアを目の当たりにした驚きをつづった。かつて住んでいた家で採用されていた室内ドアの樹脂シートとは、比較にならないくらい見事なものだった。

 使い勝手や性能を向上させた工業製品としての建材に、技術の進歩を疑う余地はない。ただ、技術開発が進むべき方向はいろいろあるはずだ。やみくもに突き進むのではなく、ちょっと立ち止まって方向性を冷静に見極める必要もあると思う。

 いかにもリアルだが本物ではない建材は、玄関ドアや室内ドアに限らない。ほかにも、レンガを模したサイディング、天然石を模したタイル、アルミを模した樹脂など、本物と見まがう建材が市場にはあふれている。こうした建材を否定するつもりは毛頭ないが、その存在理由を考えることに意味はあるはずだ。

 建材・設備メーカーは、エンドユーザー(建て主)だけでなく、プロユーザー(設計者や施工者)のニーズにもこたえるために、製品を開発・販売している。建材・設備メーカーはもちろんのこと、そのニーズをつくり出し、利用している皆様の意見を聞かせてほしい。

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