2009年は未曽有の景気悪化と衆議院議員の総選挙で、公共事業の是非が改めて問われる1年になりそうだ。

 都市部と比べて民間資金で成り立つサービス業や製造業などの民間部門が弱い地方部では、地域の経済を支える公共事業の役割が依然として大きい。例えば、島根県は2006年3月、浜田市を中心とする地域を対象に公的資金のフローを分析。その結果、地域の住民の総所得2194億円のうち、26%に当たる570億円が国や自治体の公的資金で成り立つ建設業や行政といった公的部門の雇用者の所得が占めた(下の図参照)。年金と合わせると、総所得の47%を占める。

 「公共事業を増やせ」という主張は、図中の「公的部門から生じる雇用者の所得」を増やせば、地域に還流するお金が増えて、地域の経済を底上げできるという考えに基づく。しかし、地域にお金を還流するためだけの公共事業が今後も続けられるのかどうか、否定的な結論を導くデータも少なくない。

 例えば、三菱総合研究所がある県を対象に試算したところ、2030年の県民1人当たりの地域維持コストは2005年の1.34倍に増加することがわかった。地域維持コストとは、地域を維持するために必要な医療や介護、教育、行政サービス、水道、ごみ処理、インフラ整備などに要する費用を指す。このコストが増加するのは、県内の人口が2005年から2030年までの25年間で3割近く減少する影響が大きい。

 一方、2030年の県民1人当たりの所得は、2005年の1.09倍にとどまるという試算結果となった。生産性や付加価値を高めて所得が若干増えても、所得をはるかに上回る勢いで地域維持コストが増加するわけだ。


(資料:三菱総合研究所)

 「これまでの公共事業は、人口増の発想だった」と三菱総合研究所地域経営研究本部の山田英二主席研究員は話す。例えば、道路を新しく造れば造るほど交通などの需要も増えて、地域を潤すといった発想だ。ところが、今後は人口が減る。「地域に新しい道路を造っても、建設費以上の投資効果をもたらしにくい」(山田主席研究員)。

 国際空港の整備など、日本が世界の中で成長するために必要な公共事業は欠かせないにしても、地域にお金を還流するためだけに公共事業を実施するのは、もはや限界だろう。投資効果の少ない後者の公共事業を続けていては、インフラ整備に充てる借金の返済や維持管理費の負担を後の世代に残すだけになる。