2008年の日経平均株価は終値が8859円56銭となり、1年間で42%下落した。これを伝える新聞が届いた大晦日、経営者がどんな予想をしていたかを調べるために、08年1月3日付の日本経済新聞をスクラップの中から引っ張り出してみた。

 紙面に登場した20人あまりの経営者、それも名だたる大企業の経営者は、誰も大幅下落を予想していなかった。予想の最安値は1万4000円なのに対して、現実の最安値は7162円。株価は08年の前半が安く、後半に回復するという予測がほとんどだ。現実は予想とは逆に動き、年の後半に大きく落ち込む結果となった。

 予想の判断理由には、「年前半はサブプライムローン問題を引きずり低迷するが後半には改善」「サブプライム問題を織り込みつつ、景気・株価は上向き」といった記述もある。多くの経営者がサブプライムローン問題を認識しながら、その影響を過小評価した格好だ。

 かく言う私も08年の年初には、期待込みで強気の株価回復を思い描いていたのだから同類である。人間は、やはり現実の延長線上で予想してしまう動物なのだ。では、予想もつかない転換期に、リーダーたちはどんなメッセージを発するのか。年明けに発表される年頭所感のいくつかに目を通してみた。

 日本建設業団体連合会の梅田貞夫会長は年頭所感のなかで「今回の事態の深刻さを考えれば、本格的な公共投資の拡大による強力な需要喚起策を早期に、かつ、景気回復の目途がつくまでの間、実施することが是非とも必要であると考えます」と、不況期によくある公共事業の必要論を展開した。一方で本質的な問題にも言及する。

 「今後、建設市場は量的にも質的にも大きく変化するものと考えられ、それに応じて建設業も変わっていかなければなりません。会員各社にとっては当面の難局の乗り切りが急務でありますが、これと並んで中長期的観点から、予想される市場構造の変化を踏まえて、新しい時代に相応しいビジネスモデルを構築することが必要となります」。

 現状の厳しさが端的に伝わってきたのは、三菱地所の木村惠司社長の年頭あいさつだ。「マンション事業は、住宅ローン減税など若干の期待はあるものの、市況回復は容易ではない。ビル事業も、各企業がリストラに追われる中、今後の見通しは厳しい」「2009年は、さまざまな価値観が変化する年になるだろう。今後、右肩上がりの企業成長を期待することは難しく、各企業はキャッシュを重視する方向へと考え方を変化させている」「限られた実需を獲得するため顧客満足経営をさらに進める」と、要旨で述べている。

 同社は大手不動産会社の中でも、千代田区丸の内など競争力の高い一等地に数多くの賃貸ビルを保有し、不況の影響を最も受けにくいといわれている。その企業のトップにして、このメッセージだ。1年ほど前の中期経営計画発表会で「法人を対象とするビル事業は堅調に進む」と答えたのとは大きな違いである。

 ついでにいうと、がっかりしたのは金子一義国土交通大臣の年頭のあいさつだ。国土交通行政の課題を並べ立てていたけれど、白書を読まされているようで、難局を乗り切ろうとする強い意思は感じられなかった。今年の経営者の年頭所感には、「厳しいけど頑張ろう」的な言葉が目についたが、具体策がないと心に響かない。米国のオバマ次期大統領のように、前向きにさせる「チェンジ(変革)」を訴えるリーダーが登場してほしいと思う。

 さて、オマエはどう考えているのだと問われたら、次のように答える。
・パラダイムの大転換は過去の需給関係を否定する。犠牲が伴うのは当然で、誰もが同じ仕事を続けられるわけがない。
・需要が減る世の中では、まやかしは通用しない。高品質のサービスを提供できる者が競争に勝つ。
・現状をどう維持するかを考えがちだが、起業時の精神に戻って、どうしたら人の役に立つかを改めて考える。

 これから訪れる変化の正体はつかめないが、産業構造だけでなく、働き方をも変えてしまうような気がしている。最後に、スクラップブックの中から出てきた経済学の巨人、ジョン・ケネス・ガルブレイスの言葉を紹介しよう。

 「あまり経済パフォーマンスを考えすぎないことだ。日本には、人生の喜び、楽しみといったほかの側面を重視する国になってほしいと思う。GNP(国民総生産)に行き過ぎた関心を、GNE(グロス・ナショナル・エンジョイメント=楽しみ)に向けるべきだと考える」。(2004年1月30日、日本経済新聞「私の履歴書」)。