今年の夏にオープンした、とある駅の近くにある居酒屋。当初は午後11時までの営業だったが、少ししてから明け方の4時まで営業時間を延長するようになった。休日を増やしたり営業時間を短くしたりする店が多いなか、最初は奇異に映ったものだ。

 「このあたりでは深夜遅くまで開いているお店は少ないから、客が入ってしょうがないでしょう」。あるとき、店長に聞くと、「最終電車が出た後の午前1時以降は、ガラガラですよ」との返事。ではなぜ4時まで続けているのかと尋ねると、以下のような答えが返ってきた。

 営業時間を延ばした一番の目的は、午後11時から終電までの約2時間の客を取ること。この時間帯の1日当たりの売り上げが仮に2万5000~3万円程度として、1カ月の営業日数が約20日とすれば、50万~60万円になる。そうすれば、毎日午前4時まで働くスタッフの人件費を差し引いても、始発電車で帰ってもらえば十分に利益が出るわけだ。タクシーではなく、電車を使ってもらうのもポイントだ。1時や2時に閉店するとなれば、タクシー代が必要になる。そして、1時~4時の営業時間は、いわばエキストラ。客が入れば、それはそれでもうけものということになる。

 飲食店の戦略ではよくあることなのかもしれないが、一見ムダに思える時間と人材の使い方が非常に意味のあるものだと知った。

 TVや新聞では、毎日のように「派遣切り」、「非正規切り」といった言葉を見聞きする。2008年の「変」を象徴する言葉だろう。どの産業界も厳しいことには変わりはない。しかし、このような時期に、あえて人材を投入し、時間の使い方を工夫して生き残りをかけているところもある。小さな居酒屋の小さな取り組みだが、そこには他産業にも使えるヒントがあると感じた。