実際に竣工した住宅の図面をウェブ上で販売する――。須永豪・サバイバルデザイン(長野県松本市)が、こんな珍しい試みに取り組んでいる。狙いは、自ら考案した「軸組み木版造」の普及だ。

 軸組み木版造は、壁と柱、屋根をすべて、標準化した集成材のパネルで構成する構法だ。パネル1枚の重さは壁梁で約25kg、一番重い床梁でも約42kgと、職人が2人いれば持ち運べる。くぎ打ちを基本にした施工法は簡単なので、「地上2階建て、延べ面積約90m2の住宅を約2カ月半で建てた実績がある」と、代表の須永豪氏は語る。

 「パネルは一般的なプレカット工場で制作できる。施工にクレーンも不要で、工期も短い。震災地の仮設住宅などに向いているのではないか。興味のある設計者に、いろいろと応用してもらえないだろうか」。こう考えた須永氏が、同構法を普及させるために選んだ方策が、ウェブ上での図面販売だった。

 2008年11月から販売しているのは、軸組み木版造で設計した「杉シェルター」(千葉県市川市、08年7月竣工)の図面だ。100分の1の基本設計図から10分の1の詳細図まで、A3判カラーで全48枚。施工中の写真約140カットも付録として添付する。価格は、購入する設計事務所の規模によって異なる。設計する建物が年間3棟以下なら、製本版が3万円、PDF版が1万円だ。購入者には、希望があればオプションとしてCADデータも別途、販売する。もちろん、建て主には了解を得ている。

 「特許や実用新案の取得を申請することも考えた。しかし、多くの設計者に採用してもらい、社会に貢献するためにも、ハードルをできるだけ低くしたかった」。考案した構法をオープンな技術としてCADデータまで販売する狙いについて、こう説明する須永氏。「本当に普及するか、利益が出るかも分からない。でも、分からないからこそ挑戦してみようと考えた。国内で大地震が発生した際には、無料でダウンロードできるようにもしたい」と意欲的だ。

 08年12月時点で、問い合わせはまだ2件。目標とする「軸組み木版造の普及」に至る道のりは決して甘くないようだ。しかし、従来の設計業務と一味違った新たな試みは、不況下の今だからこそ、建築設計者に求められるのではないか。ウェブ上には、一部の図面が掲載されている。どのように評価するかは自由だ。まずはウェブサイトで、軸組み木版造の仕組みと、“挑戦者”の試みを確認してみてはいかがだろう。

軸組み木版造の図面販売ページ
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