名刺の肩書きを見ても、仕事内容はよくわからなかった。
「どんな仕事内容なのですか?」と聞いてみた。
 少し考えた後でその人は、「わかりやすく言えば難しい確認許可の代行業です」と答えた。

 敷地不接道により再建築不可となっている物件で、近隣とのもめ事に困ったある設計者が評判を聞いてその人に相談したところ、近隣住民を説得して回って印鑑をもらい、無事に建築審査会の同意を取り付けた。「建築基準法43条1項ただし書き」による許可だという。

 自身の仕事を説明するためのチラシを見せてもらった。「確認おろします」「死んでいる土地を生かします」などの言葉の横に、小さなゴチックの文字で秘密厳守と書いてあった。

 建築基準法では、建築物の敷地は建築基準法上の道路に必ず2m以上、接していなければならない。しかし実際にはさまざまな理由で、この規定に当てはまらない敷地が存在する。

 このような場合に、交通上、安全上、防災上、衛生上、支障がないという前提のもとで条件を付けて許可するのが「43条1項ただし書きによる許可」と呼ばれるものだ。1998年の法改正によって新設された条項だが、一般的にはそれほど知られていない。しかも「秘密厳守」と書かざるをえないような、なんとなくグレーな印象がつきまとう。

 都心では少なくとも戸建て住宅の1割以上が、不接道敷地の問題で身動きが取れなくなっている土地であるという。この条項には諸刃の剣の面もあるだろう。しかしストック時代への課題である既存不適格住宅の問題を前に進めるためには、存在や運用実態についての情報を、もっとオープンにしてほしいと感じる。

 法と現実の板挟みに悩む実務者たちや、地元住民の声と向かい合いながら行政の最前線に立つ人々は、どんなふうに考え、判断しているのだろうか。生の声を聞いてみたい。