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南アルプス貫通は「延長20km程度、土かぶり1400m程度」

 いよいよ南アルプスを貫通させてみる。西側のボーリング調査地点は、長野県大鹿村大河原釜沢にある。東側の地点からは直線距離で22~23km程度あり、報告書に記された「延長20km程度」とほぼ一致する。

 おおまかには、標高3047mの塩見岳と3141mの悪沢岳(荒川岳)の間を通る。2地点を直線で結ぶと標高2800m程度の山の直下を通ることになる。一方、報告書では土かぶりを1400m程度と想定しており、国鉄時代の調査で大土かぶりの課題が指摘されていたことにも触れている。これらを与条件としてルートを予想することにする。

 静岡県との境にある伝付峠は尾根が若干低くなっており、大井川の上流に当たる西俣流域も谷になっている。これらを生かすようにトンネルを曲げてみると、長さは少し延びるものの、通過部分の山の標高は2500m程度に収まる。標高が2500m程度になるのは、早川町新倉のトンネル“入り口”から約18kmの地点だ。

 土かぶりが1400m程度なら、トンネルの入り口から18kmの地点で標高が1100mになるということか。入り口は標高500mなので、高低差は600mだ。33‰程度の勾配にすれば上れる計算になる。

リニア新幹線の南アルプス貫通ルートを予想・検証
予想ルートの南アルプス貫通部分。ボーリング調査中の2点を結んだ。報告書に沿って土かぶりが1400m程度になるよう、峠や谷に近づけたルートにした。大鹿村のボーリング調査地点は小渋川から小河内沢が分岐する付近 (作成:ケンプラッツ、地図提供:マピオン (c)Yahoo Japan)
リニア新幹線の南アルプス貫通ルートを予想・検証
上記ルートの断面図。中央部に向かって上り勾配を設けると、土かぶりを1400m程度に収められる (作成:ケンプラッツ、プログラム:Michael Kosowsky (c)2008 Michael Kosowsky. All rights reserved. 許可を得て掲載)

 鰍沢口駅付近から早川町新倉に向かう際の勾配を、仮に40‰とすれば、トンネル入り口の標高は800mになる。トンネルの長さや土かぶりを小さくすることができ、線形を曲げたりトンネル内に急勾配を設けたりする必要性も薄れる。この場合、トンネルの入り口部分に大規模な高架橋が出現しそうだ。いずれにせよ詳細なルートは、ボーリング調査の結果を受けて決められる。

 ここでふと、実験線の勾配が気になった。断面図を見ると、大月と甲府の間にある笹子峠の越え方が興味深いのだ。実験線は、前後約20kmの大部分をトンネルにして、中央に向かって40‰の勾配を設けている。この線形は、上記で予想した南アルプス貫通の断面に、非常に似ているではないか。

 確かに笹子峠は、付近の交通の難所の一つだ。しかしトンネル内には、断面図にあるほどのアップダウンは必要ないように思える。ひょっとすると、南アルプス貫通ルートの具体的な線形が最初に設計されていて、問題がないかどうかを確かめるために、実験線の笹子峠に似た線形を造ったのではないか――。そのように思えてくる。

 ちなみに、実験線の延伸区間では、都心の大深度地下を模した各種テストが行われることになっている。笹子峠前後の区間に、大深度地下用の排煙設備などが設置される可能性が高い。

リニア新幹線の南アルプス貫通ルートを予想・検証
山梨リニア実験線の断面図。笹子峠の前後約20kmのトンネルは40‰の勾配で上り下りしており、さながら南アルプスを貫通するトンネルのようだ (資料:リニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会)

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