地震発生から24時間以内に、東京23区のうち11区で「紙」が尽きる――。政府が設けた中央防災会議の首都直下地震避難対策等専門調査会(座長:首都大学東京の中林一樹教授)が10月27日に公表したシミュレーションの結果によると、深刻なトイレ不足に加えてトイレットペーパー不足も問題になることが明らかになった。

 同専門調査会は、首都直下地震が発生したときに東京23区でトイレの需給バランスがどうなるのかを初めて試算した。阪神・淡路大震災などで被災者が最も困ったのは、食料や衣服の不足ではなく、トイレの不足だったからだ。

 シミュレーションの結果、以下のようなことがわかった。例えば、都心の千代田区では地震発生から2時間後、トイレに4時間半待ちの長蛇の列ができる。

 世田谷区内を通る幹線道路の国道246号沿いでは、都心などから徒歩で帰宅する人が避難所のトイレや公衆トイレに殺到。沿道でトイレが不足する状態が地震発生から17時間も続く。


●世田谷区内の国道246号における時間帯別のトイレの需給

(注)中央防災会議の資料から。正午に地震が発生し、徒歩帰宅者が国道から200m以内のトイレを使った場合。多数の児童や生徒がいる小中学校の避難所のトイレは、半数しか使えないと設定。断水率も考慮した。ただし、トイレが非常に汚れていたり、トイレットペーパーが足りない場合でも、トイレが使えると仮定した


 さらに、断水などが起きなくても、トイレが使えない場合があることも明らかになった。トイレットペーパーの不足だ。

 まず、地震発生から6時間後までに、千代田区と目黒区でトイレットペーパーが不足する。12時間後には、新宿区と世田谷区でも不足。24時間後には、江東区や中野区なども加わって計11区でトイレットペーパーが尽きる。


●地震発生から24時間以内にトイレットペーパーが不足する区

(注)中央防災会議の資料から。トイレットペーパーの需要量は1日1人当たり9mと設定した


 同専門調査会の報告書では「トイレの確保だけでなく、併せてトイレットペーパーの備蓄の充実も求められる」と指摘している。

 震災対策はとかくインフラに目を向けがちだ。例えば、地震発生後もトイレが使えるように、浄水場や水道管の耐震補強などを考える。しかし、耐震補強が100%完了しても、トイレットペーパーがなければトイレは使えない。

 市民にとって重要なのは、耐震補強できているかどうかではなく、トイレが使えるかどうかだ。使う側の視点に立った幅広い想像力が欠かせない。